ネオゲバレンタインSSS(隼竜・チョコのあげあいっこ・いちゃいちゃ)

ひゅう、と音まで冷々とした風が硝子戸の向こう側で吹いている。
照明があたたかく灯る部屋で、これまたぬくぬくと炬燵の中に潜り込んでいると、数刻前までは確かにその中に居た筈の外の寒さをまるで関係ないもののように忘れてしまうこともあるから不思議だ。
夕飯も食べ終わった後で、体の内側からも暖まっていることが更に、普段常に張りつめ続けている隼人の意識を心地よく弛ませていた。
「また今年も大漁だなー」
食後の茶をすすりながら隼人が持ち帰った紙袋の中を覗き、竜馬は慣れているのか特に感慨もないように言った。紙袋の中身はいわゆるバレンタインのプレゼント…チョコレートやらクッキーやら…勿論、全て職場で貰ったものだ。
恐竜帝国との戦いが本当の意味で終わり世の中が落ち着き始め、最近では世間だけでなく軍の中でもこういう行事を楽しむ傾向が出てきたらしい。
気が緩んでいると言われればそうかもしれないが、竜馬は笑って『いいことじゃねぇか』と言ってくれた。隼人自身も、そう思っている。
良いことと言えば、毎年この日はよっぽど急ぎのことでも無ければ隼人は早めに仕事を上がれる。それは、おせっかいな仕事仲間達の好意の上に成り立っている習慣だった。
…まぁ、その日に竜馬の元に行けない場合の『沈んでいる』隼人と共に仕事をするのは――彼がそういった感情をあまり表に出すタイプでは無いとはいえ――色々な意味で非常に心苦しいと言う声が職場で多数あってこその好意でもあるのだが…。
「あぁ、年々気合いが入ってきている気がするな…そう言うお前こそ、結構貰っているじゃないか」
炬燵の上に積まれた菓子の箱を見ながら隼人は言う。
「あー、今日買い出しに町に降りたらついでにって結構もらってよ。あとは道場のやつらの奥さんとかが送ってくれたのが殆どだぜ」
「………本命とか、無いだろうな…」
からっと笑いながら説明する竜馬を見ながらしかし、隼人の胸のうちはどうももやもやとする。どうやら嫉妬深い質であることは自分でも理解している。だからこそ普段は出来るだけそれを表に出さないようにしているのだが…。
「ねえよ!」
そんな隼人の心中を知ってか知らずか、竜馬はあっさりと否定する。困ったように笑いながら無い無いと手を振られ、言葉通り一笑に臥された。
「大体よ、ホンメーだったらお前の方が貰いそうなもんじゃねえか」
「俺はお前以外は義理しか受けとらん」
これは本気で、ばっさりとそう言いきると竜馬はほんとかよ?と少しいかぶしむように呟いた。
「それに俺宛だけでもない。これなんかは、お前にもといっていたぞ」
「え?本気かよ?おー!日本酒入り!?すげぇな!」
竜馬はたまに、ゲッターチームに稽古をつけたりするためにネイサーに行くことがある。そのため職場では竜馬のこと――ひいては、竜馬と隼人の関係についても――を知っている人間は意外といないという訳でもない。
数年前から少しずつ、何か貰うと共に『流さんと一緒にどうぞ』と言われる回数が多くなってきている。
「それと、これは翔からだ」
年相応の少女らしいラッピングに包まれたチョコを渡すと、竜馬は『なんかくすぐってぇな』と言いながら照れたように笑った。
「ミチルさんからも送られてきてるぜ、武蔵の分も」
「あぁ、彼岸の墓参り前に一度、持っていってやらんとな」
数年前に所帯を持ち早乙女研究所を出たミチルも、多忙のためあまり顔は出せないながらも古い友人達のことを気にかけてくれている。
「…ところで、竜馬」
そろそろ本命が欲しいんだが…と暗にねだるように、隼人は竜馬を見た。
「………っとに、ちゃんとあるから急かすんじゃねーよ。」
やれやれといった表情で竜馬がそう言うと、隼人の顔に分かりやすく笑みが浮かぶ。
余人が見たら驚く程に単純に喜ぶ隼人を見て、竜馬も仕方ねぇなあと言いつつも満更ではなさそうだ。
「まーいつも通り、バレンタイン用のやつじゃねぇぜ」
「あぁ、全く構わん」
あからさまにねだる態度を見せる隼人だが、バレンタインの前に自分から竜馬に欲しいと言ったことは実は一度も無い。
この道場で初めて共に過ごした年の同じ日に軽い気持ちで竜馬が茶菓子用に買っておいたチョコをプレゼントしたら、驚くくらい喜ばれ、それ以来『まぁ、こんなもんで喜ぶなら』と毎年この日はチョコを買っておくことにしていた。
とは言え、いかにも男らしい自分の図体でギフト用にパッケージされたそれを買うのは気はずかしく、あげるもの自体はいわゆる市販のチョコのセットだ。
それでも、そんななんでもないチョコでも隼人はとても喜ぶ。
純粋に竜馬に貰えるのが嬉しいということもあるが、この日なら、床に入る前でも少しくらいの我儘は許してもらえるということもあった。
「竜馬」
炬燵から出した足を胡座の形に直し、隼人はぽんぽんと自分の膝を叩いた。
「お前な…今年もかよ」
「駄目か?」
「…駄目じゃーねーけどよ…」
しょーがねーやつ。と呟きながら、竜馬は向かい合うように隼人の膝の上に乗る。
膝の上に抱き上げる形になった竜馬の背を、隼人はぎゅっと抱いた。
「こら、やりにきぃだろ、離せ」
「いや、こうするとお前の胸が目の前に来て中々…」
「中々じゃねーだろ!恥ずかしいんだからとっとと終わらすぞ!」
自分の胸板に頭を埋めようとする隼人を制止して、竜馬は自分の買ってきたチョコの包みを開く。
一粒摘まむと、少し背を屈めて、隼人の顔の前にチョコを持った方の手を差し出した。
「ほらよ!とっとと食え!」
「あーんして、とかは無いのか?」
「………」
あまりの恥ずかしさに赤面した竜馬は、図にのって更にそれ以上の要求をしてくる隼人の口元に『いいからさっさと食え!』と無言でチョコを押し付けた。
全くどうしようもない。普段の二人を知る誰にも見られたくない光景だと竜馬は思った。
こう言うことを、普段とあまり変わらない態度で…しかし、常よりとても嬉しそうな雰囲気で頼む隼人に、どうにも否とは言えない自分が嫌だった。
その度に、彼に惚れているということをいやがおうでも思い知らされてしまう。
「美味いな…」
竜馬に手ずからチョコを貰えた隼人は、いつもと変わらない抑揚で、しかしどこか満足げにそう呟いた。
「へーへー、そいつぁ良かったな」
「俺からは、今年は洋酒入りのものにしてみたんだが…日本酒と被ってしまったな…」
言いながら隼人は、片手を竜馬に触れたまま、自分も彼に用意したチョコの袋を取り出す。
「かまわねーよ。…相変わらずちっちゃくてたかそーだなお前が選ぶやつは」
「そりゃあ、自分でも食べたいやつを選んでるからなぁ」
ホワイトデーまで休みの保証をすることはできない。それに大抵バレンタイン前の方が選択肢も広い。お返しまでその日のうちに済ませてしまうのも毎年の習慣となっていた。
意外と珍しもの好きの彼は、毎年竜馬がこれまで食べたことが無いような趣向のものを用意してくれる。
普段はお互いにそこまで甘いものに興味を示さないので、この日は普通に『普段食べないもの』を楽しむ日にもなっていた。
「何種類かあるな…ブランデーがいいか」
「酒の瓶の形してるだけで見た目はふつーのチョコだな…あ、自分で食うなよずりい!」
ぱくり、と目の前で一粒目を口に放り込まれ、竜馬は思わず声をあらげる。
しかし、隼人の手が後頭部に回され、彼の思惑を知った竜馬は先程よりも更に顔に血が昇るのを感じた。
「ん」
「ば!ばか!てめ!…っ!ん!」
口付けられ、無理矢理引きずり出された舌先に酒とチョコの混じりあった甘いしびれを感じる。
(仕方がねーやつ…)
こいつも、自分もだ。
甘さも苦さも一緒になってとろけてしまうキスを交わしながら、応えるように隼人の舌の表面を自分のそれでなぞる。
背に回された隼人の腕に少し力が入るのを感じて、竜馬は彼にばれないよう、こっそりと喉の奥で笑った。

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2013-02-14
あまあましか書けない呪いにでもかかってんだろーか…

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