他愛無い話 (サーガG。後に隼竜になる隼→竜。勝手に嫉妬)

他愛無い話

いつもより早く仕事を切り上げてゲッターチームの寝室へ帰る。ドアを開ける隼人の表情は常通りだが、その内心は随分と上機嫌だった。
理由は単純だ。竜馬が、己の帰りを起きて待っていると約束してくれたからだ。
「お、おかえりー。弁慶はもう寝ちまってるぜ?」
上着は羽織っただけのパジャマ姿でベッドの上に座っている竜馬が、すっかり布団を被って高いびきの弁慶の姿を指差す。
部屋の照明は半分落とされ、常よりも暗めに設定されていた。よく寝ている友への配慮だろう。
「あぁ、ただいま。疲れたろうからな…。お前も、無理に起きていなくても良かったが」
「俺は平気だぜ。ほら、お土産、まーフツーにクッキーだけどよ」
「あぁ、ありがとう。楽しかったか?自然公園は」
いかにも観光地土産という風情の包装をされたクッキーを受け取って、隼人は自分のベッドに腰かける。
隼人と竜馬のベッドの間には、チェストも何も置かれていない。下手に寝返りを打てば相手のベッドに転がり込んでしまいそうな距離は、時に隼人の心を偶然を装ってしまおうかという誘惑で脅かす。
「あぁ、すっげー楽しかったぜ!」
心からそう思っているのがよくわかる笑顔で、竜馬は答えた。
竜馬と弁慶、それに早乙女博士の息子である元気の三人は、今日は休暇を利用して研究所から少し脚を伸ばしたところにある自然公園に遊びに行っていた。
隼人も誘われたが、生憎関わっている仕事のメドが立つかどうかわからなかったため断っていた。
思ったほどの多忙では無かったので今朝には行こうと思えば行けそうな気もした。だが、一度断っている上、時間があるならあるでやることが無い訳でも無い。結局、今回は結局不参加だった。
今回は…というか、パイロットの他に研究者、博士の助手しての仕事も抱えている隼人がそういう遊びに顔を出すのはせいぜい数回に一回くらいのものだ。
愛想をつかしてもいいだろうに、毎回律儀に誘ってくれる他二人にはありがたいが申し訳ないと、口には出さないが常々思っていた。
「元気ちゃんなんかはしゃいじまってよ、もう大変だよ。弁慶のやつ、引っ張られるまんまになってたぜ」
勿論共に行ければ一番良いのだろう。しかし、こうやって土産話を聞くのも悪くない。
と言うより、彼が出掛けた日の夜に、竜馬に色々な話を聞きながら過ごす時間は隼人にとっては至福の時だった。
寝息を立てる弁慶が起きないように声を潜めながらも、ころころと表情を変えながら、夢中でその日起こったことを伝えてくれる。ありのままの感情を無防備に自分に見せてくれる竜馬が愛しくて、我知らず隼人の口角は自然に緩められている。
話したがる竜馬とは対照的に、弁慶は外出をしたあとはよく寝入る。外出後の夜は、まるで竜馬と二人きりのような空間になるものだった。隣り合ったベッドの上で声量を落として喋るのはどことなく秘密じみていて、隼人は時に場にそぐわない官能を想起させられていた。
「お前も来ればよかったのによぉ」
そう言って貰えるのも、竜馬に一緒に居たいと思って貰えている証のように聞こえる。竜馬にそう言われる度、おそらく永遠に満たされる事はないだろうと半分諦めている恋心が少しだけ浮き足立つ。
共に行って自分を含めた皆と楽しく笑いあう竜馬を見るのも良いが、自分だけにこの言葉をかけてくれる竜馬の方が、隼人の斜に構えた恋にとっては魅力的だった。

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「でよぉ、元気ちゃんがスワンボート乗りたいって言って、弁慶引っ張っていっちまって…二人で先に乗っちまったんだぜ。二人しか乗れねえから俺だけ置いてきぼりだよ」
二人とも寝支度を済ませ、それぞれのベッドの上に座っていた。少し頬を膨らまして、竜馬は不満げに置いていかれた話をする。
「あぁ、確か人工湖があるんだったか…。そいつは災難だったな」
「ほんとによ。待てって言っても聞かねぇんだもん」
むすっと拗ねた少し幼い表情もまた愛らしいと、隼人は思っていた。
「一人で待ったのか、退屈だったろ」
隼人が言うと、竜馬は意外にも首を横に振った。
「俺も一回乗ってみたかったからさ、近くにいた兄ちゃんと二人で乗ったんだ」
「!?」
予想外の解答に、隼人は目を見開く。
突然現れた第三者の存在に、ひどく嫌な予感がした。
「誰かと…一緒に乗ったのか?」
訊ねる己の口元がひきつりそうになっているのが解る。
「おう!横浜から一人で観光に来たっつう兄ちゃんでさ、なんか傷心旅行?とか言ってたぜ。湖見ながら一人でぼーっと突っ立ってたから話しかけてみたら結構おもしろい人でさぁ。たまにはあーいうのも、楽しかったなぁ」
傷心旅行…旅先での出会い…スワンボート…。
何となく、年若い男女ならば何かが始まりそうなキイワードの羅列に、隼人は竜馬に気付かれぬよう小さくかぶりを振った。
(馬鹿な。男同士だぞ。同じ男でこいつに懸想するやつなんぞ俺一人で充分だ!…あぁ、だがしかし、心が沈んでいる時にリョウに明るく話しかけられなどしたら…!)
先程まで自分本意な密かな優越感に浸っていた隼人の心中は、今は焦り一色で染まっていた。
まずあり得ないと頭では解っていても、手のひらに嫌な汗が滲んでくる。
「スワンボートって足こぎだろ?結構漕ぐのにコツ要るんだよなぁー。慣れたらオールより楽だったけどよ。横尾さん…あ、横尾さんって言うんだその兄ちゃん、漕ぐのうまくってさ。あーいうのパッと出来るのって意外と格好良いもんだな」
(格好良い!?)
竜馬の口から何の気なしに、自分の知らない男に向けて放たれるその言葉に、隼人は到底今まで覚えたことの無いような激しい感情――嫉妬にかられた。
(足漕ぎ式ボートぐらい俺にも漕げるぞ。リョウだって恐らく初めは力任せにやったんだろうがコツをつかめばすぐ出来るようになるはずだ。大体ただそれだけのことで…いや…まて、まてよ…)
腹の内でぐるぐると渦巻くどす黒いその感情を整理しているうちに、隼人の脳は恐ろしいことに気がつく。
(くそ!俺はなんで断ったんだ!)
竜馬は言った。元気と弁慶に先に乗られて置いていかれたのだと。
それはつまり、今日そこにいれば、或いは竜馬とボートに二人乗りしていたのは己だったかもしれないということだ。
男二人では恐らく少し座席が狭いだろうボートに、何時もより親密な距離で隣り合って座る。ひょっとしたら肌に、彼の体温を感じることが出来る近さかもしれない。
彼が上手いこと漕げないと言うのなら、それこそ手取り足取り…『こうやるんだ』と教えることを口実にその身体に触れられたかもしれない。
ベッドの上で胡座をかいている、竜馬のしなやかに筋肉のついた脚を己の手で支える想像が、隼人の脳内で不健全に膨らんでいく。
『へー、こうやんのか…こら、やめろって、内腿くすぐってぇよ』
『お前ってこういうのの構造もよく知ってんだなぁ…よし、どっちが早く漕げるか競争しようぜ!』
『なぁ、もう一回ぐらい乗らねぇか…なんかさ、俺、もうちょっとだけ隼人と…二人で居てぇな…』
――という展開になった可能性も、あったかも知れないのに!!
最後の台詞――ちなみにこの時、隼人の脳内の竜馬は少し頬を赤らめて、照れくさそうな顔をしていた――は完全に己の願望だと知りながらも、隼人は心底悔やまずには居られなかった。
「な、なぁ、おめぇ大丈夫か?ひょっとして疲れてるんだったら長話しちまってわりぃ…。もー電気消すか?」
眉間にシワを寄せて黙りこんでしまった隼人を、疲れているのかと竜馬は心配する。
「…!…え、あ、いや、大丈夫だ…で、楽しかったのかその…横尾さんとのボートは」
想像の中の己の思い通りに動く竜馬に魅せられていた隼人は、現実の彼に気を使わせていることに気づき慌てて会話を繋げた。
「楽しかった!…でもよ、横尾さん連絡先くれたんだけど…やっぱり俺からは連絡しない方がいいよな。下手したら巻き込んじまうし」
「れっ…連絡先だとっ!?……っ…な、なんでまた」
「なんかまた話してぇってさ。でも俺住所とか研究所だろ?フツーの人には教えねぇ方がいいから教えてねぇけどさ。でもよ、もしあっちの方に用があって行ったりしたときは、連絡したらまた会えるかな?」
「っ!」
惚れた欲目は冴えた頭脳も底なし沼の如くずぶずぶに澱ませる。もう隼人には完全に、竜馬がその横尾とかいう男に口説かれていたとしか考えられなかった。しかも竜馬の方もにっこり笑ってまた会いたい等と言っている。
仏頂面の下で、隼人は最悪のパターンを思い描く。
久しぶりにとれた長めの休暇。旅行ついでに見知らぬ男に会いに行く竜馬。
頭を撫でられて、夕飯でもネタに家に連れ込まれて、好きだとか忘れられなかったとか会いたかったとか言われれば、ひょっとしたら人のいい彼はころりと転がされてしまうかもしれない。下手をすればそのまま泊まっていくことになって…。そして、ともすれば、その夜竜馬の無垢な唇が、肉体が、更には心までもが、自分以外の見ず知らずの男の餌食に――。
「っ――連絡はっ…とらない方が、いいんじゃ、無いのか?」
焦りのあまり裏返りかける声をなんとか押さえながら、隼人は竜馬に思い止まらせる言葉をかけた。
「俺らと下手に関わって、鬼どもにでも目をつけられたらたまったもんじゃないだろう…」
「やーっぱそーだよなー。はぁ、しゃあねぇか」
心底残念、と言いたげにため息をつく竜馬に、隼人の心はまたももやもやと雲る。
「でもよ、ほんとに楽しかったぜ、あの公園」
そんな隼人の心中を知らずに、竜馬は話を続けた。
「けっこーひろいしよ、弁慶たちとまた行きてぇなって言ってたんだ。次はおめぇも行ける日にしよーぜ」
「あぁ、そうだな」
「お、乗り気だな」
何時もならば『予定が合えばな』と明確な返事は返さない隼人にすぐに応と言われて、竜馬は笑みを浮かべた 。
「今月はもう無理そうだが、来月なら非番がいくつか空いている」
「え?日にちまで決めんの?」
「先に目処をたてておいた方がいいだろう」
言うが早いか手帳を開いてスケジュールを確認し始めた隼人に、竜馬は流石に少し驚いている。
手帳のページをめくりながら、なぜ、今まで気づかなかったのかと隼人は己を叱責していた。
殆どの時間をここで過ごしているから、恐らく油断していたのだ。外出先で竜馬が誰かに見初められる可能性は十二分にありえる。それにその男のように、外出先で竜馬と二人きりになることだって、自分にもできるかもしれないのだ。
どこの誰とも知らん男に許されて、なぜ俺には許されないのか。八つ当たりにも近い怒りが隼人の心中でたしかに沸き立っていた。
「この日と、この日か…」
手帳を広げると竜馬はひょい、と横からのぞきこんだ。豊かな黒髪が揺れ、シャンプーと彼のにおいが混ざりあった得も言われぬ芳香が隼人の鼻孔をくすぐった。
「あー、この日は俺も非番だよな?でも弁慶はちげぇはず…んーむずかしいなぁ」
直近の日付を確認して首をかしげる。彼のそんな何気ない一挙一動をこんなに間近で見られることは奇跡的なことなのだと、今さらのように隼人は認識し直していた。
「元気ちゃんも来月にはまた学校はじまっちまうしなぁー」
んー、と竜馬は腕を組んだ。
「流石に急すぎたか…」
「ん、でもよ」
少しがっつきすぎたかと思い始めた隼人に、竜馬は切り返す。
次の瞬間、その唇は信じられない言葉を紡いだ。
「たまにはよ、二人でいくってのも良いかもな」
「……!!!」
「ちったぁ案内できるしよ。結構たのしいぜ。近いんだからいかないのはもったいねぇよ…ん…どした?隼人?」
竜馬に訝しげに見上げられてやっと、隼人は己が随分間抜けな顔を晒したまま固まっていたことに気づいた。
「あ…いや、その…」
「なんでぇ、俺と一緒は不満かよ」
「ちっ!違う!…構わん!行こう!」
むう、とふくれられ、隼人は慌てて弁解した。
「うわっ!声がでけえよっ…弁慶起きちまうだろっ」
「あっ…すまん…だが、本当に不満な訳じゃ…」
「まー確かに、おめぇと二人で出掛けんのなんて、買い出しの時ぐらいしかねぇからな」
のんきに笑う竜馬の横で、隼人は突然降って湧いた幸運に喜びよりもむしろ不安を覚えていた。
竜馬と二人で遊びに行く…向こうにはその気は全く無いだろうが、隼人にとってはそれはデートだった。一日中二人きりで一緒にいて、彼に覚えている様々な感情を、果たして己は堪えきれるのか。
「じゃ、そろそろ電気消すか。明日も早いしな」
「…………あ、あぁ」
ひどく険しい顔をしている隼人に気付かず、竜馬はそう提案しさっさと寝る体制に入った。

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消灯して暫く立っても、隼人はどうも寝付けなかった。横で寝ている想い人と二人きりで遊びに行けるかと思うと、否が応でも意識が浮ついた。
脳内では、己らしくもなくなんの根拠もなく繰り広げられる都合の良い妄想――夕暮れの湖畔で竜馬と手を繋いだり、なんの前触れもなく突然その日彼と恋人同士になったり、夜も更けた頃彼に見上げられ『帰りたくねぇ』と酷く誘惑的なわがままを言われたりだ。――と、それをたしなめる理性がせめぎあっていた。寄せる波と引く波が、絶えず互いに衝突しあっているかのようだった。
(…馬鹿か、俺は)
そう思っても、妄想はなかなか止まってくれなかった。竜馬のことを想うとき、隼人はいつも己の『役目』を忘れてしまう。神童、体操選手、学生運動指導者、ゲッターパイロット、宇宙線研究者――いついかなる時も、他人の目がそれを望んだ時も自らその立場に納まった時も、隼人は己の役割を的確にこなすことが出来ていた。時に周囲に、そこまでせずともという目を向けられるほどに。
幼い頃は、そんな自分が酷く厭だったこともあった。だが、今は違う。今は、己が己として立ちたいと思う――望んでいる道がある。だからこれからも、自分と言う男はそうあるべきだと隼人は覚悟している。
しかし、横にいるこの男への想いが膨らむ時、途端に隼人は隼人以外の何者でもなくなってしまう。剥き出しの自分以外でいることが許されない。誰に何を望まれるでもなく、自分でも何を成せば良いのか解らない。
そして、そんな恋情の迷宮の中にいる自分が焦がれる『自分と竜馬の恋人同士の姿』は、中学生ですらもう少し世間ずれしているだろうと思うほどに稚拙だった。
しかし、自己への軽蔑を伴うはずのその煩悶は、同時に触れずにはいられないぬくもりを有していた。彼に心を奪われる時は、冷静にあるために常に冷えている己の内のどこかが、熱を持ち活きはじめる。まるで、新しい生命が胎動を始めるその時を見ることが許されたかのような――はっとするその瞬間は、彼以外誰も与えてくれない、無二のものだった。
「…隼人、寝ちまったか?」
そんなことをぐるぐると考えていると、ふと横から当人に話しかけられた。先程より密やかな、囁くような声音だった。
「――いや。どうした。眠れないのか?」
「へへ、ちょっと興奮しすぎたみてぇ」
顔だけ横を向くと、隼人の方を向いて横たわっている竜馬と目があった。
まだ暗がりに目が慣れないため表情はよく見えなかったが、おそらくばつが悪そうな顔で笑っているだろうことはその輪郭から見てとれた。
「おめぇさ、修学旅行とか、いったことあるか?」
「ん?……まぁ、あるが」
突然突拍子もないことを聞かれ、何故と思いながらも返事をすると、竜馬は密やかに笑った。
「へぇ、お前でもやっぱ行ったんだ…。俺はよ、学校は行ったんだか行ってねぇんだかよくわかんねぇような生活だったし…そういうのいつも行けなかったから――出掛けるとやたら楽しくなっちまってさ…寝ねぇといけねぇのは、解ってるんだけどよ」
「あぁ、成る程な…」
そう言えば、武蔵に修学旅行の話を聞いて楽しそうだなと笑っているのを見たことがあった。どこかに出かけた日に帰って来てからもこんなにはしゃぐのは、同年代と集団で行動した経験が少ないためもあるのかもしれない、と隼人は思った。
「…なぁ、おめぇは、俺らと違ってやること沢山あるから、あんまりここあけらんねぇの解ってるけどよ」
「ん…」
「俺は、おめぇと一緒にどっか行くのは…楽しいから好きだぜ」
そう言って竜馬は、今度は夜目にもわかるほどにっこりと笑った。部屋の中は暗かったが、闇夜の中でも隼人にはその笑顔が、まるで日の元で見たかのように明るく見えた。
「俺も、土産話も良いが、お前たちと行けたらもっと楽しいだろうと思うさ」
「へへ、行けるといいな、来月」
胸の奥から沸き上がる喜びをなんとか押し留めながら言葉を返すと、竜馬は今度ははにかんだように笑い、『おやすみ』と言い残して布団に潜った。
(楽しい…か)
自分のような堅い男といて何が楽しいのか解らないが、そう思ってくれるならば有りがたい。
海に行けばどちらが遠くまで泳げるか競走だの、スキーに行けばどっちが先に滑り降りられるか競走だの――ちなみにスキーの時、竜馬はそのスポーツ自体初めてだったくせに随分と無茶をした――時にムキになって竜馬と遊んでいる姿は、傍から見れば存分に同世代同士で楽しそうにしているようにしか見えないのだが…彼よりも随分落ち着いているつもりの隼人はそんなことを思っていた。
先程の竜馬の笑顔を思い出しながら、隼人は再度目を閉じた。片耳には、規則的な呼吸の音が聞こえている。
脳裏に浮かんだその笑顔は穏やかで、隼人は今度はきちんと眠りにつける気がした。

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百鬼帝国とのやり合いにも辛くも勝利し、約束した場所が戦禍を被る事も無かった。希望通り次の月、二人は自然公園へ脚を運ぶことが出来た。
二人きりでこんなに長い時間を過ごしたのは初めてかもしれなかったが、以前来た時に楽しかった場所を、時に隼人の服の袖を引いて案内する竜馬はとても嬉しそうだった。隼人も勿論楽しんだ。だが楽しみならがもその心は、仕草や台詞に魅入られる度に、竜馬への想いを吐露してしまいそうになる己に戸惑っていた。皆で遊びに行く時よりも随分と近い距離で話しても全く嫌がらない竜馬に、隼人は確実に自分の心が、彼にこの想いを伝えてしまいたい方に傾いていくのを感じていた。
ただ、スワンボートの浮く人口湖だけは、横尾と過ごした時のことを話したがる竜馬に向き合うだけの心の余裕を持てず、隼人は最後までそこに近づこうともしなかった。
竜馬がそこで聞いた横尾の話とは『付き合っている彼女と酷いケンカをして沈んでいる』という、云わば惚気話の方に近いものであり、竜馬が横尾と連絡を取りたがったのは『恋愛とかよくわかんねぇけど、そんなに大事ならなんとか話してみりゃいいじゃねぇか』と随分おおざっぱながらも彼なりに相談に乗った手前、その後がどうなったか気になったため、だったのだが…。
そんなあまりにもたわい無い真実を隼人が知ったのは、その日よりももっとずっと後――竜馬と恋仲になる事が出来て、隼人がその独占欲を以前よりも正直に表現できるようになった頃だった。

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2014.9.28 UP

ただ解りやすい嫉妬話が書きたくての巻。
本当にどうでもいい話、横尾さんのフルネームは横尾徹(よこおとおる)です。奇●組みたいなネーミングセンスですね。辛い。

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