初仕事 (サーガ無印。隼→竜?。白衣も良いけどスーツもね)

そう言えば、正装をするのは久しぶりだ。
鏡の前でネクタイの形を整えながら、隼人はふとそんなことを思った。
メカザウルスからの日本防衛で、ゲッターロボ開発責任者――ひいては、ゲッター線研究第一人者――である早乙女博士は最近あちこちの学会・研究会から引っ張りだこ状態だ。
しかし博士本人は研究一筋の人間で、どちらかと言うとそのような場に頻繁に顔を出すのは好かないタイプだ。普段は非常時を理由に断ることの方が多い。
だが、いくら恐竜帝国との戦いが未だ渦中とはいえ、駆け出しの頃から面倒を見て貰っていた人物からの願いであったり、それなりの地位の人物からの要請であったり、流石に無視できないケースがあることも事実だ。
ゲッターチームの事実上の司令官である彼が研究所を空けるのはできれば避けたい事態ではあるが、致し方無い場合にはパイロットの一人が博士に付き、有事の際は恐竜帝国からの博士の護衛及び研究所所員・チームメンバーとの連携を行うということになった。
では、博士の護衛として誰を付けるか。
学会、ゲッター線研究の発表の場…。己の知識欲を刺激する内容に惹かれ、元より自ら志願するつもりの隼人だったが、それより先にその場にいた全員が一斉に隼人に顔を向けた。
特に、自分を除くゲッターチーム二人の目が、心なしかすがるようだったのが忘れられない。
「まあ、隼人が適任だろう」
ワシの助手としても、頼む。そう言って笑う博士に、隼人はためらいなく了解の意を示した。

初仕事の会場は、正装での参加を義務付けていた。
かしこまった場に赴くと言うのは久々だ。特に最近はパイロットの訓練か研究・実験助手しかしていなかった。博士と一通りの打ち合わせをしたとはいえ、流石の隼人も少し緊張している。
いつもは騒がしいゲッターチームの寝室に、今は隼人一人しか居らずやけに静かなのもその理由の一つかもしれない。
『よーし!俺らは外で待ってようぜ武蔵!』
普段あまり身近ではないスーツをひとしきり珍しがった後、竜馬はそう言って武蔵と一緒に部屋を出ていった。
にっと笑ったその顔は、何の企みがあるわけでもないだろうに何故かいたずらっぽく見えた。
鏡に映った自分は…どうだろうか。そこまで不自然ではないと思うが…やはりそれなりにいつもとは違って見える気がする。
竜馬はなんと言うだろうか。
余人にどう思われようが構わない筈だが、さっきの笑顔がちらついて竜馬がどう言うかがどうも気になる。
いつもの笑顔で『いいじゃねーか』、と言ってくれるだろうか…。『オッサンくせぇ』等と言われたらおそらくだいぶ傷つくだろう。
『大人っぽい』などと言われたら…。戯れに頭をなでるぐらいの事はしても許されるだろうか…?
竜馬の反応に今から一喜一憂している自分に、隼人は苦笑した。
「隼人君!そろそろ準備できた?」
ドア越しに、ミチルの声が聞こえる。
なんとなく竜馬のことを考えていた隼人は、その声で我に帰った。
「ええ、俺の方はいつでも」
「そう、父が先にロビーの方で待っててって…あら、すごい、決まってるじゃない」
言い終わる前にドアを開けた隼人の姿に、ミチルが少し驚いたように目を開いた。

「なーリョウ!がっかいってうまいもん出るのかなー?」
「俺が知る分けねぇだろそんなこと。良くわかんねーけど説明聞くだけで肩凝っちまうよ。俺なんか。」
「ま、初仕事とゆーことで、俺たちがちゃんと見送ってやろうぜ!」
竜馬と武藏のなんとも能天気な会話が廊下越しにも聞こえ、隼人は思わず吹き出しそうになった。
「見送りとは、ご苦労なことだな」
「おー隼人…って!なんかすげーな!」
ロビーにいる二人に声をかけると、先に振り向いた武蔵が隼人を見るなり騒ぎ始めた。
「おっ、隼人、博士ができれば先に車出しとけって――」
そう言って、博士から預かったらしい車のキーを上着のポケットから取り出した竜馬は、隼人の方を見て固まった。
きょとん。といった表情か。何度か大きくまばたきをする。長いまつげが動く様を、思わず隼人は目で追ってしまった。
「…変、か」
なにか一言ぐらい言われるだろうと思っていたのだが…竜馬のそういう反応を予期していなかった隼人は、スーツや髪になにかついているのか、と身を払う。
「お前!ホントに俺らと同い年かよ!フツーにみえすぎだろその格好がよ!」
少し興奮したような口調で、武蔵が言う。
「失礼なことを言うな」
暗に老けて見えると言われた気がして、隼人は少し眉根を寄せた。
「いやいや!なにいってんだ!誉めてんだよ!なーリョウ」
「…え、あ、お、おう」
武蔵に話題をふられ、竜馬がぎこちなく答える。
「とりあえず、車を先に出しておくか。リョウ、悪いが一緒に来てもらっていいか」
「え?あ、ああ、いいぜ、シャッター閉めたりしねぇと行けねえからな」
「じゃー俺は博士と一緒にここで待ちますかねー」
「ああ、頼む」
外は寒いから風邪引くなよーと言いながら見送る武蔵を残して、隼人と竜馬は自家用車のあるガレージへ向かった。

「リョウ」
「…おー、何だ?」
ぼうっとしたまま横を歩く竜馬に声をかけると、彼は弾かれたように顔をあげた。
「やはり、どこか変か?スーツは最近着ていなかったから、自分では良くわからなくてな…」
ネクタイとの色の合わせや、止めているボタンの数など、一つ一つ確認しながら訊ねる。とりあえず、変に見えるところは無い。ではこの竜馬の反応はどういうことか。
「いや、変じゃねーけど…んー…」
竜馬が何かを言い淀むことは珍しい。隼人はなんとなく心が毛羽立つような心地がした。
「お前って、大人だよなぁ…」
「ん?何か言ったか?」
これもまた常の彼にはない小さな声で呟かれ、隼人は聞き返す。
「…なんでもねーよ!」
しかし、少し怒ったような語気でそう答えると、それきり竜馬は黙ってしまった。

所の前まで移動させるため、車に乗り込む。竜馬は隼人の助手席に乗った。
「なんか、ゲットマシン以外運転してるお前見るのって新鮮だなー」
「ああ、今度合間を見て皆でドライブでも行くか」
「お!珍しいな!隼人がそんなこと言うなんて」
どこにいこうか、と考え始める竜馬の顔を横目で見る。やっといつも通りの彼になったようで、隼人は少しほっとした。
そういえば、竜馬はこういう格好には縁がない生活をしていたと聞いた。緊張したのかもしれない。
そう思い至ると、竜馬の緊張を解してやりたくなり、隼人はことさらいつも通りの同年代の友人の態度で彼に接する事にした。
テレビ番組のことだとか、遊びに行きたい場所の話だとか…他愛ない会話をしているうちに、車は所の前についた。

「おお、すまん、ミチルに学会に下駄はないだろうと怒られてな。私服や白衣なら楽だったんだが、どうも背広は慣れなくていかん」
所に戻ると、仕度を終えた博士が武蔵と共に待っていた。
眼鏡をかけているせいか、いつもより穏やかな印象だ。
「いえ、車も準備できていますし、いつでも出られますよ」
「おお」
「博士、隼人のやつなんだか勤め人みたいじゃないですか」
まじめに話している横から武蔵がちゃちゃをいれる。博士はふむ、と一息つき、隼人の姿をもう一度まじまじと見た。
「確かに、つい最近まで詰襟を着ていたようには見えんな。」
「博士…」
「そう気落ちした顔をするな。いいじゃないか。決まっているしなかなか格好が良いぞ」
反応に困る隼人とは対照的に、博士は随分と上機嫌に笑った。

「あ」

会話の流れが、竜馬の驚いたような声で止まった。
思わず、皆が竜馬の方を見る。
「なんだよリョウ、すっとんきょうな声出して」
「あ…わり、なんでもねぇ」
「リョウ、どうかしたか?」
「え、いや!ほんとなんでもないんです!いや、気を付けて行ってきてほしいなーと…ははは」
いかぶしむ周囲に、竜馬はから笑いで答える。
「博士、そろそろ時間が」
「おお、そうだのすまんすまん」
「じゃあ、行ってくる」
「あ、隼人…」
「ん?」
博士の後に続き、研究所のドアを出ようとした隼人は、竜馬の声に振り向いた。
小さく息をついてから、竜馬は口を開く。

「俺も、かっこいいと思うぜ、その…スーツ姿…」

駄目だ。
車を運転しながら、隼人は何度も逸れようとする自分の意識を叱責していた。にも拘らず、脳内では何度も先程の竜馬の言葉が繰り返されている。
少し照れたような顔でそう言った姿が可愛すぎて、普段はどちらかというと憎まれ口で信愛の情を示す彼が素直に『かっこいい』と言ってくれたことが嬉しすぎて…その声音を思い出す度に自然と口角が上がりかける。
(どうかしている…)
こんな浮き足だった心持ちでいられるような時でないことはわかっている。しかし、道ならぬ恋を胸に秘めた身にとって、その相手からの称賛の言葉は、溺れざるを得ぬ甘露の海のようであった。
ともすれば蕩けてなくなりそうな自我をどうにか保とうとする隼人を救ったのは、なんとなしに見たサイドミラーに映った自分の顔だった。
だらしなく緩みそうになる筋肉をなんとか引き留めようとしている表情は、苦虫を噛み潰しているようにも見え、どうにも余裕がない。
(いかん、こんな顔をていては――)
彼に『かっこいい』と言われた自分ではなくなってしまう。
何があろうと確りとこの仕事を終えて、研究所へ帰る。
先程少し照れた様子だった竜馬は、今度はどんな風に自分を迎えてくれるだろうか。
もう一度、普段は見られないような彼の表情を見たい。
そう思い直し、隼人は自分を押さえるため、小さく息を吐き、ハンドルを握る手に力を込め直した。

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2012.12.23 UP

書いた本人も引くぐらい青春してますがな。
『隼人がスーツで初仕事に行く時に竜馬にかっけぇじゃん!って言われて内心超テンションあがる話』みたいのを書きたかった。
その妄想時点ではリョウ君からしてみれば何の気もない一言的に考えてたんですが、書いてみたらマジで付き合う5日前みたいになってましたね。遺憾である。

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