地固まる (チェンゲ。隼竜。ぎくしゃく後いちゃいちゃ)

※真ゲはやりょうぎくしゃくからイチャイチャへSSS
司令がいろんな意味でぼろぼろ。R15ぐらいよ!

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「やっぱりよぉ、博士が土壇場で考案した背後から切り込む作戦がきいたよな!」
「ん?まぁあいつらしい奇襲だったけどな。でもおめぇんとこの若いのだって今回補佐よくやってたじゃねぇか」
宙域戦闘後の会議は、必要事項の確認後すぐに雑談の場に変わった。
全く、今頃隼人達は今回の敵の動きから今後の対策を話し合っているだろうに、俺も含めて流竜馬はそういうところは理詰めになれないようにできているらしい。とはいえ、恐らく3号機連中も似たようなものだろう。弁慶の娘自慢か武蔵坊の過去の女の話ででも盛り上がっているか。
新とサーガが能天気にお互いの相方を誉めあうのを聞きながら、真はそんなことを思っていた。
「はは、やっぱ乗って立ち回れるやつらはいいなぁ。俺もたまには乗りてぇぜ」
横でネオが笑うのを聞いて、真は特に深いことは考えず口を開いた。
「…大佐さんも、撤退経路の確保素早かったじゃねぇか」
「お!やっとしゃべったな!真!」
ずっと黙っていた真の一言に、ネオがすかさず反応する。
「待ってたぜ!今回一番貢献したのは、間違いなく事前にあの宙域の構造について調べてた司令さんだろ?」
「おう、司令が情報もってなきゃ、うちのヤツもあんな作戦思い付かなかったぜ」
「え、あ、お、おう…まぁ、前あの辺がよくわからんっていって調べてたからな」
サーガとネオからここぞとばかりにたたみかけられて、真は少し戸惑う。突然のことに新も、少しキョトンとした顔をしていた。
「実はよ、さっきネオと話したんだが、今回はどこも隼人が頑張ってくれただろ?」
「ていうか俺達普段あいつらに負担かけてばっかだし、たまには息抜きに、こっちがなんかしてやるのもいいかなって」
言って、サーガとネオは少し照れ臭そうに笑った。
「し、してやるってなんだよ!」
意味深な展開に、新が眉を潜めて訊ねる。
「一つだけ、あいつのしてぇこと、なんでもしてやろうかって」
「俺もたまにはそういうのもいいかなって思ってな。不公平になるとあいつらにわりぃから、お前らもやれよ?」
はにかみ気味に笑いながらそう答えるネオと、さも当然のことのように『義務』だといい放つサーガに、新は「あぁ?!」と驚きの声をあげ、真は予想外の展開に目を丸くした。

「な!なにいってんだよ!なんでもって…」
「ま、たまには飴も必要かなってよ…」
「ネオのオッサン普段から飴しかやってねぇだろ!」
「そ、そんなことねぇよ!」
新に指摘されて、ネオは慌てて否定する。
「まぁ、確かにネオはエロいからなぁ」
「え!ええ!エロいってなんだよ!!」
サーガにまでからかわれ、その内容にネオの顔は一気に耳まで赤く染まった。
「よくキスマークついたまんまで来てるしな、オッサン」
「~~~!?う!うそだろ」
「おう、髪の生え際とか襟に隠れて見にくいところとか、上手くみつかんねぇようにマーキングしてるぜ、大佐。ていうかおまえも実はやってんじゃねぇのか?」
「あんにゃろ!あんなに見えるとこにはつけんなっつったのに!…あ、お、俺はそんな、べべ、別にっ…」
「この上大佐の好きなよーにさしてやるなんて、次あった時にはオッサンキスマークだらけかも知れねえなァ」
「つぅかヤりすぎで仕事に穴開けんなよ?」
「~~~~」
きひひ、と心底楽しそうに笑う新と、自分達のいちゃいちゃぶりを棚上げしてからかうサーガに返す言葉が見つからないようで、ネオは真っ赤になって口をパクパクさせた。
年下にまでいいようにからかわれているネオに助け船を出すべきかどうかと考えていた真に、サーガが声をかけた。
「司令も、かなり頑張ってんのはおめぇだってわかるだろ?たまにゃ安心させてやるのも悪くねぇせ?」
「え、あ…」
「色々あったのはしゃあねぇが、今になっちゃもう人生何回分昔のことかわかんねぇじゃねえか。まぁ、お前より司令の方が気にしてるんだろうけどよ」
「…」
確かに、真は最近夜二人の部屋に帰っていない。ゲッターとの連携調整のためと言い訳はしているが、実際には、自分と距離をとりかねているらしい司令にどう接すればいいのか解らないのだ。
司令の様子がおかしくなったのは、ネオと新がこっちに来て暫くたってからだ。
自分達以外は時期は違うとはいえ人の身だった頃から随分と深い仲で、そのことで周囲と自分達のギャップに戸惑っているのはわかる。だが、何かを伝えたいが言い出せない、という顔をずっとされると、真の方も困るのだ。
夜も、こちらのベッドにやって来こられて口付けられてこれからするのかと思ったら、謝るだけでそのまま寝所に戻られる…ということが数度続いていて、何となく一緒にいるとぎくしゃくしてしまうようになっていた。
真の方は普段、他は他で俺達は俺達だからどうでもいいだろうがと思っている。しかし一方で、他の二人が『現世』でしたデートの話などを耳にすると、正直少し羨ましいのも事実だった。
とはいえ、この状態でそんなことをもし司令に言えば、なんだか余計打ちのめしてしまいそうだ。なんともいかんともし難い状態だった。
「あーそういや司令のおっさん、俺に菓子くれる度に『本当はもっと俺の竜馬に向き合えたらいいんだが』みてぇなこというぜ」
「…あいつ、息子みてぇな年齢のお前にンなこと相談してんのか…」
新の言葉に、真はあきれ気味に呟く。
司令が、昔の自分に少しばかり似ているらしい彼を気にかけているのは知っている。恋情等ではないことは解っているがーーそもそもそんなこと、新と一緒に来た、執着心の塊のような若造が許す筈がないーー彼のように屈託なく笑うのは今となっては難しい真としては、少し寂しい気持ちになることではあった。
「ははは、あのおっさん渋カッコいい見た目の割に気がよえぇとこあっておもしれえよなぁ。俺んとこの隼人と全然違ぇぜ」
「その、お前んとこの隼人のわがままも、ちゃんと聞いてやるんだぞ」
サーガに横やりを入れられた途端、笑っていた新はぱっと表情を変えて、むうと剥れた。
「…俺ンとこのは、難しいコトにしか興味ねぇから、たぶん俺に出来ることなんてねぇぜ?」
「そんなもん、訊いてみなきゃわかんねぇだろ」
サーガに言われて、新は暫ししかめっ面で後ろ頭をかく。
「…ま、気が向いたらな」
新の表情の変化が、真には意外だった。彼も彼で、こちらに来てからーー周りに遅れをとらず、かつ常に新を完璧にサポートするためとはいえーー研究研究で中々構ってくれない彼の隼人に複雑な思いを抱いていることは、真は知らなかった。
(じゃー邪魔すんな部屋から出てけとか言われたら、洒落んなんねぇぜ)
多分、何でもいうことをきいてやると言ったら即効『すごくいちゃいちゃ』か『すごくえっち』なお願いをされるだろう自分以外の二人の師範を眺めて、新ははぁ、と小さく似合わないため息をついた。
その横で真も、どうしたものかと眉根を寄せて腕を組んでいた。

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その気になれば全ての境界を無に帰せる世界では『プライベートな空間』は、時に贅沢品や嗜好品に思える。
部屋に帰り、コートをハンガーにかけて、リビング用に作った空間にある二人がけのソファに座る。ぼうっとどことも言えぬ空間を眺めながらどうしたものかと思案していると、背後の扉ががちゃりとあいた。
「竜馬、帰っていたのか」
どうやら自分の竜馬がいる気配を察したらしい。
書斎で仕事をしていたらしい部屋着姿の司令ーー隼人が『座っていいか?』と訊ねてきた。
二人の部屋で座っていいかも何もねぇだろと思いながら少し席を詰めると、隼人はそこに腰を下ろす。
「会議は、終わったのか?」
「俺等でまともな会議になるかよ。適当に今後のコト決めて、後は与太話しておしめぇだよ」
「…そうか」
隼人の問いに、竜馬はさらりと返す。
その後しばし、無言の時が流れた。何となく落ち着かない。ここのところはずっとそうだ。お互い隣に座っているのに、視線も会わせずぼうっと前をみている。暫くして、隼人がやっと唇を開いた。
「なぁ、竜馬。今日はーーこっちで、寝るのか」
「おう」
短く返すと、隼人の周囲の空気が少し安堵に緩んだ気がした。横目に掠めみた隼人が浮かべている、目尻を緩めた笑顔の中に、なにかしらの疲れと諦念がが滲んでいる気がして竜馬は心中がざわつく。
「竜馬…」
「ん?なんだ」
「すまない…暫く、こうしていていいか」
そっと、本当に羽が触れるようにそっと、膝の上に置いていたバンテージ越しの手に、隼人の掌が重ねられる。
「…」
暖かい。それなのにどこか壁がある。
自分から僅かな体温すらも奪わぬように、臆病なほどに優しく触れてくる隼人に、竜馬は『しかたねぇなぁ』とぽつりと呟いた。
びくり、と小さく震えた隼人の肌には気づかない振りをして、竜馬は口を開く。
「なぁ、隼人」
「…なんだ?竜馬」
「今回大活躍だったじゃねぇか。あの宙域のこと、お前が調べてたのが役立ったんだろ?」
「…え?あ、あぁ、まあ、そのようだが…」
まさかこの流れで誉められるとは思っていなかったのだろう。隼人は少し戸惑いながらも頷く。
「新もネオも、サーガさんもいってたぜ、お前、すげえ頑張ってるって」
「…」
「俺だってよ…その、そう思ってるぜ」
「…!」
じわり、と重なった掌が熱くなる。
顔は前を向いたまま、目だけちらりと横の隼人を見ると、頬が真っ赤に染まってしまっているのが見えた。しかし、その瞳に浮かんでいる色は、手放しな喜びのものではなかった。
「…まだまだだ」
「?」
「お前は、お前たちは各艦隊の要だ。 けして失うわけにはいかない。だから俺達は、お前に何があっても対処できるように、もっと知識と経験を積まなければならない。それに、それ以前にーーお前は、俺の…俺にとって、その…」
隼人が、自分の中のがんじがらめの枷をなんとか解き放とうとしているのは察することができた。しかし、もどかしさに負けて、竜馬は遮って言葉を続けた。
「まぁ、真面目なのはいいけどよ…ネオのやつに言われたんだよ、たまには飴も必要だってよ」
「…飴?」
意味を図りかねた隼人が、鸚鵡返しに聞き返す。
「だからよ…今回貢献したてめぇにサービスして、俺が、お前のいうこと聞いてやるっつってんだよ。何でも…ひとつだけ」
「!?」
ちら、と視線を隼人の方に流しながら言うと、いつの間にか自分の方に顔を向けていた彼が、驚きに目を丸くしているのが見えた。
「りょ、竜馬…おまえ、何を言って…」
信じられない。と顔に描いてあるかのようだ。確かに、つい最近までふらりと出ていったきり朝まで帰らないことが続いた恋人が突然こんなことを言い出せば、温度差に翻弄されても仕方がない。
「俺じゃなくてサーガさんの発案だけどよ。…ほら、なんかあるか?俺にしてほしいこと?」
「……………」
隼人が言葉に詰まるだろうことを知っていてわざと、竜馬は何でもないことの様に訊ねた。
さて、俺はいつまでこいつの返事を待てばいいんだろうな。
ひどく追い詰められた顔をした隼人を見て、竜馬はそんなことを自問自答した。

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愛しければ愛しい程に、自分にはその思いに答えてもらう資格が無いのではないかと思ってしまう。
他の宇宙の『自分と竜馬』を知る度に、他の竜馬達が他の自分に見せる気を許しきった笑顔を見る度に、隼人はどうしようもない自己嫌悪と焦燥感に苛まれた。
生まれた宇宙を離れて、更に気が遠くなるほどに長かっただろう時をひたすらに戦い続けて、この宇宙にたどり着いた。
前の戦場では良かった。竜馬に己の気持ちを正直に伝えることができたし、竜馬もまた、隼人を憎からず思ってくれていることを、行為と時に見せる穏やかな笑顔で教えてくれた。
それがこちらに来てからというもの、どうにも自分に風当たりが強かった博士に、見知らぬ宙域に単身調査任務に行かされたりーーちなみに、これを自分の持つすべての能力を駆使して最速で終わらせてから帰還して以来、博士の隼人に対する態度は随分と軟化したーー他の宇宙の自分達を目の当たりにして、己のしたことの取り返しのつかなさを突き付けられたり、どうしても心が澱むことが続いていた。
そして、隼人が不安定になれば、その感情は竜馬に伝播する。その結果が今の状態だ。隼人は躊躇いから竜馬に触れることができない。そして、隼人は知らなかったが、彼に求められないことで実は随分と精神的に不安定になってる竜馬は、二人の寝室に寄り付かなくなった。
後方支援に呼ばれた大佐は、オープンな愛妻家だ。ーー実際、妻だった。彼は自分の持てる権限のすべてを駆使して、実際的にだけではなく法的にまで、ネオを得ていたーー彼には『過ぎたことはいいから、目の前の相手を大事にした方がいい』と言われた。
自分の竜馬に向き合えない結果、最近親しくなった新と共に来た若者には『お前のコトなど知ったことではないが、とにかく俺達の邪魔をするな』とことあるごとに威嚇されている。
博士には『まぁ、歴史は不可逆だからどうしようもないが…。お前は、もし過去を変えられる権利を得たら、今までのお前と真の積み重ねてきたものを無かったことにするのか?』と訊かれたことがある。ぞっとした。そんなのはごめんだ。何よりも誰よりも、今目の前に居る竜馬が好きなのだ。彼が魂の全てでもって戦ってきた道を否定するような冒涜は出来ない。
だが。だが、竜馬の方はあんな記憶、消してしまいたいんだろうかーー。
「おい」
隣に座る竜馬に呼び掛けられて、隼人ははっと我に帰った。
「いつまで待たせんだよ…あと、手ェいてぇ」
「あっ!す、すまない!」
いつの間にか、触れあっていた竜馬の手を強く握りしめていたらしい。苦言を呈されて、隼人は慌てて手を離した。
「で、なんかねーのかよ、俺にしてほしいこと」
そうだ。竜馬からとんでもないことを言われていたんだ。何でもひとつーー何でも。
「あ、あぁ、そうだな…えっと…」
毎日きちんと部屋に帰ってきてくれ。一緒に眠ってくれ。もっと、俺と一緒にいてくれ…。もっと、他のお前みたいにもっと…?いや、違う、そうじゃなくて…。
胸のうちでは色々な願望が、でたらめに絵の具を塗りたくったキャンバスのようにぐちゃぐちゃに混ざりあっている。
竜馬をあまり待たせるわけにはいかない。なにか、彼の気が変わらないうちになにか。そう、隼人は焦った。
「…甘えて、くれないか?」
「あ?」
結果、口をついてでたのは、自分でも意外な言葉だった。
「甘える…って、俺が?お前にか?」
ぽかんとした顔をして聞き返す竜馬に、隼人はこくりと頭を倒して応える。
意外な言葉だったが、口に出してしまえばそれは存外的外れでもない願いにも思えた。
そうだ。甘えてほしい。彼にとっては頼りなくて今一信用できない男かも知れないが、それでも彼のためにできる限りのことはしたいと思っているのだ。
「あまえ…って、ど、どんなことすりゃいいんだよ?」
余りの要領の得られなさに、竜馬が訊ねる。当たり前だ。意識的に誰かに甘えた経験も、甘えることを許された経験も、ここに来るまであまり無い。
「だからその…なんというか、こう…よ、寄りかかったり、とかだな…」
言いながら、隼人は恥ずかしさに自分の耳が熱くなっていくのを感じていた。
体温が上昇すると、少し色の変わる顔の傷跡を、竜馬はまじまじと眺めた。
「よ、よりかかるって…えっと、こうか?」
言って、竜馬は上半身を隼人の方に倒す。
「ぉ、おお…」
こつりと肩に顔をもたれさせると、隼人が小さく感嘆の声をあげるのが聞こえた。久方ぶりに彼の肌の温度を感じて、竜馬は妙な気恥ずかしさを感じる。
しかし、ここから先どうすれば『甘えたことになる』のかが、竜馬には解らない。
「そ、それから、どーすんだよ」
「えっと…その…」
竜馬に寄りかかられたまま、隼人は戸惑った。
例え自分が仕掛けたことでも、竜馬の方からくっついてくれるのは嬉しかった。だが、どこかぎくしゃくとしている。幸せだが、なにかがしっくりこない。
「もっとこう…お前の好きなように」
「好きなようにっつったって…あ、甘え方なんて俺…わかんねぇよ」
「!?」
竜馬に困惑した声で言われ、隼人は一気に頓悟した。
そうだ。したことがないことをしろといって解るわけがない。それに、自分の本当の望みは、これではない。
「…すまない、竜馬」
「ん、んだよ」
とりあえず彼なりにそれっぽくしようとしたのか、おずおずと自身の片腕に手を回した竜馬に抱きすくめたくなる程の愛しさを覚えながらも、隼人は謝った。
「…間違えた。もう一度だけ、頼み事をやり直させて貰ってもいいか?」
「あぁ!?て、てめー!俺の努力を無駄にする気かよ!」
「すまない、竜馬…本当に俺は…」
あまりに虫のいい頼みごとに、竜馬は眉を怒らせる。しかし、隼人がまた『謝るだけ』モードになってしまったのを察して、はぁ、と諦めたようにため息をついた。
「っとに、謝るぐれぇならちゃんと考えてから言えっつうんだよ…で?なんだよ」
「…聞いてくれるのか?」
「おめぇのどーしよーもねぇのには、こっちは慣れてんだよ」
謙虚なんだか厚かましいんだか解らない物言いに、全く、と言葉と同時にため息をついてから、竜馬は観念したように応と答えた。
これでは甘えているどころか甘やかしているんじゃないだろうか。そう思ったが、こんな手の掛かる男にどういうわけだかほだされてしまったのは自分なので仕方がない。いや、他の自分達を見た限りではひょっとしたらこれはもう、そういう運命だから抗ってもどうしようもないものなのかもしれない。しかも、運命なら運命で、その相手がこいつでよかったと思える自分に竜馬は心中で呆れた。
「…ありがとう、竜馬。その、願いなんだが」
「応」
「甘やかしても、いいか?」
「…ん?あんま、変わんなくねえか?」
「違うさ、全く」
言うが早いか、隼人は竜馬の腰に手を回し、もう片方の手で自分の肩に預けられている力強い黒髪を撫でる。ぐい、と竜馬の引き締まった腰を自分の方に引き寄せ、身体同士を密着させて隼人は『ほら、違うだろう』とかすれた声で囁いた。
「…!」
久しぶり…と言うか、褥以外では基本的に過度な触れあいはしてこなかった竜馬は、突然の濃厚な接触に羞恥よりも戸惑いを覚える。
「莫迦だ、俺は…。本当は俺がお前に触れたいだけなのに、お前からそうするように仕向けようとしてーー」
「っ…ふ、触れたいって…こんな…」
蕩けてしまいそうな手付きで、髪を撫でられる。
「可愛い、竜馬」
「っ!なにいってんだ突然!」
囁かれた言葉の内容が恥ずかしすぎて、思わず弾かれたように声の方に視線を向けると、どこか解放された様子の、酷く幸せそうな笑みを浮かべた隼人と目があった。
「本当だ。いつも、そう思っている」
「え…うあ、な…」
ひょいと、隼人の膝の上に横抱きでかかえあげられた。決して軽くはないのにこともなく抱き上げられ、竜馬は心中慌てる。
「うおっ!お、おいてめぇ!…っん!」
絶対に離さないと言わんばかりに胸のうちに抱きすくめられ、髪やら首筋やら色々な場所に口付けられた。甘やかしていいといった手前反抗できない竜馬は、されるがままになるしかない。
「なぁ、竜馬…俺はな、お前のうなじも好きなんだ」
「!!?」
言葉通りの場所を撫でながら、隼人は最愛の恋人に笑いかける。
「知っているか?後ろ髪をかきあげると、小さなほくろがあるんだ…。サーガやネオを観察したが、彼らには無くてな。新にも無いとあの若造に聞いた。だから…これは、お前が俺だけのお前だという証だ。俺にとっては、特別な」
「やめろっ!お前…もう、しゃべんな 」
「嫌だ」
「っ~~~~~」
ひたすら主観で自分を愛で続ける隼人に、遂に耐えられなくなり制止の言葉をかけても、彼はにべもない。
「今夜は、正直になってもいいんだろう。愛している、竜馬」
「~~~~~!」
真摯な瞳。密着した素肌。耳から脳髄を蕩けさせそうな熱い吐息。そして、普段あまり彼が見せることはない、本当に嬉しそうな笑顔。
(やべぇ。久しぶりすぎて…)
溺れちまう。と竜馬は思った。
ここしばらく隼人の肌に飢えていた竜馬にとって、この展開は危険だった。しかも夜の一時ですら、こんなに直接的な表現で可愛がられた事はない。
ふざけんな。そんなことわざわざ言うな。恥ずかしい。そう思っているのに心臓は勝手に喜びに脈打つ。体重はしっかりと隼人に預けられていて、口では嫌がっていても、竜馬の身体からは抵抗の意志が奪われつつあった。

—————–

「ん、んっ…」
首筋に優しく口付けられて、竜馬の唇からは小さな吐息がこぼれる。
寝室には、二つのベッドが置かれている。しかし、そのうちの一つ…竜馬のベッドは今はもぬけの殻だ。
ソファで身体中くまなく可愛がられた後、横抱きのまま寝室のベッドに連れてこられた。
服は着たままだが、身体同士はぴったりと重なりあっている。だが、今の隼人の望みは、性交ではなく竜馬との密な触れ合いのようだった。隼人の指先に、濡れたまぐあいの時のような思惑は感じられない。ただ、大切なものを優しく愛でるように触れられる。
「臍も…」
「んっ…」
「綺麗な形をしている。すっきりと縦に割れていてーー」
「…」
タンクトップの中に忍び込ませた手で、
その窪みを優しく撫でながら囁かれても、竜馬ははじめの頃のような抵抗は見せない。
好きだ。可愛い。愛している。綺麗だ。
ただ唇に乗せるだけならば、ていのいい口説き文句にしか聞こえないかもしれない。だが、表情は微笑んでいても、隼人のまなざしはずっと真摯な炎を宿したままだ。
恥ずかしい。適当言いやがって。そんな反発は、隼人の腕に抱かれて、その瞳を覗きこむうちにいつの間にか消えてしまっていた。
まるで酔いが身体中に回ったときのように、思考がぽーっとしてうまくものを考えることが出来ない。あるいはただ抱かれるよりもずっと濃厚かもしれない隼人の愛撫に、竜馬はすっかり蕩けていた。
「ふ…可愛いな…自分がどんな顔をしているか、わかっているのか?」
「ん、ん…?」
「こんな可愛い顔が見られるなら、もっと早くこうすればよかった」
可愛がられ身体中マッサージのように優しく撫でられて、とろんとしてしまっている竜馬を見下ろし、隼人はそんなことを呟く。いつものとげとげしさがすっかり抜けてしまった様子で、自らの腕のなかにすっぽりおさまっている竜馬に、隼人は堪らない愛しさを覚えた。
知らなかった。竜馬がこんなにも、可愛がられるのに弱いなんて。
微睡むようにとろけた瞳は、心なしか何時もより潤んでいる。うっすらと紅潮したままの頬と、幾分か緩く結ばれた唇。指先は力なく、隼人の服に引っ掛かっている。
額に口付けたくなり少し上体を起こすと、その指先が、くいと下に引かれた。
離れるなと願うかのようなその反応はまるで分別なく甘えているかのようで、隼人の心には先程無理矢理竜馬に甘えてもらった時とは比べようもないほどの幸せが沸き上がった。
竜馬のにわかに正気を失っている様子と、いつもとは違い素直に彼に感情を吐露できる状況に後押しされ、隼人は更に心中を打ち明ける。
「竜馬…本当は、今夜だけじゃなく、いつだってこうしたい」
「いつだって…って…」
ぎゅうと抱きすくめられ、耳元で囁かれる。さっきからずっと大好きな隼人の匂いに満たされていて、それもまた竜馬を蕩けさせている理由の一つだった。
「なぁ、ベッドももう、一つにしないか?二人きりでいるのに離れて眠るなんて馬鹿らしい…そう思わないか?」
「え…?」
だが、続く隼人の言葉に竜馬は少し正気付いた。声は先程より不安げだったが、台詞の内容はより大胆だ。
「こんなに可愛いお前を見られるのが今晩だけなんて御免だ。…確かに俺は、博士さんやらに較べれば寄りかかり甲斐が無い男かもしれない。だが…」
「んなこと、ねぇよ…」
「…!」
きゅ、と竜馬の指先に力がこもる。
「って言うか、さっきからおまえばっか、ずりぃ…」
「?…りょう、ま…!?」
少しだけ身を起こした竜馬の方から、そっと鼻の頭にキスされて、隼人は一瞬動きを止める。
「りょ…」
「おめぇの傷、俺は結構気に入ってるぜ…」
「!!」
口づけたあと隼人の顔を覗きこんで、その驚いた表情に満足したらしく、竜馬はにぃっと笑う。
「背中にあるでかいヤツも、あと、この辺にあるヤツ…」
「っお…りょ、竜馬っ」
へその下に僅かに残っている傷跡のことを言っているのだろう。下腹部をまさぐられて、隼人は頬を染めてたじろぐ。その辺りを触られるとやばい。最近竜馬としていなかったから、すぐにその下の股間が熱を持ってしまいそうだった。
「こっちも…」
そう危惧した核心の場所にまでするりと手を伸ばされて、隼人は硬直する。
「このでけぇのも、気に入ってんだけどよ。最近随分大人しいじゃねぇか?」
「っ!!?」
今夜は優しく竜馬を愛そうと決めて、いきり立たぬよう理性で押さえつけていた逸物はしかし、当の竜馬の指先でそっと布越しに触れられただけで、バキバキと硬度を増してしまった。
「うわ、すげえ、早ぇ」
「お、おい、竜馬っ…」
「なぁ、おめえやたら甘ったりぃことばっか俺に言ってたけどよ。だったらなんでここんとこ、仕掛けてこねぇんだよ」
すりすりと人差し指と中指の二本をズボンの上から上下させるだけでも、その中にあるモノがどんどんむくむくと育っていく。すっかり余裕が消えてしまった表情も、求められている証のようで悪い気はしない。
面白くてその行為を続けながら訊くと、隼人は苦虫を噛み潰したような顔で応えた。
「ーー本当に、その、俺でいいのか?」
「…あぁ!?」
「ぐぉっ!?」
ぐっと、抗議の声と共に玉を握りこまれて、隼人は苦悶する。ぎゅっと一瞬潰されただけで手はすぐ離されたが、指先で弄られて随分その気になっていた愚息には効く一撃だった。
「てめぇふざけんなよ!その言い様じゃぁまるで、俺がてめぇ以外とヤりたがってるみてぇじゃねえか」
「そ、そうなのか?!」
「んな訳あるか!!おめぇ一人で腹一杯だよ!」
「そ、そうか…」
良かった。と小さく呟く声が聞こえて、竜馬ははぁとため息をつく。
「つぅかおめぇ…もう何べんヤってると思ってんだよ…今更すぎるだろ。おめぇの方こそ…飽きちまったんじゃねぇのか」
「ば、バカを言うな!」
飽きられる、というか馴れる方法があるなら隼人の方が教えて欲しいくらいだった。もうどのくらいの時を共に過ごしているかもわからない。それなのに、竜馬の一挙一動に、いつだって余裕など無くなるほど魅せられていると言うのに。
「とにかくな、こうなっちまった以上、おめぇ以外なんてねぇんだよ…ベッド一つにしようが、おめぇがしてぇようにしようが、その、構わねぇからよ…だから」
甘える、というのはやったことが無かったからよくわからなかったが、甘やかされる…というか可愛がられるのは、存外嫌なものでもなかった。
だがら、少しだけ。そう思って、竜馬は唇を開いた。
「あんまり、俺のこと…ほっとくなよな」
「ーー」
一拍の静寂の後、竜馬の視界は一変した。
「っ竜馬!竜馬!」
「ぅあ!な、なんだよっ…んっんむぅっ!」
先程までの甘やかで優しい雰囲気など掻き消えた。
思い切り抱きすくめられ、口付けられる。お互い服を着ていることを一瞬忘れるほどに、相手の身体の熱を感じていた。
「んっ…すまない。すまなかった竜馬。もう不安にさせることはしないから…だから…」
薄々感づきながらも、確信が持てずにいた、竜馬が夜間にコクピットにいく理由。
爆発に巻き込まれた果てに、月のゲッターロボ内部で目覚めた竜馬にとって、コクピットは第二の揺り籠のような場所だ。タワーで戦っていた頃にも、姿が見当たらないと思ったらその場所で寝ていた事が幾度かあった。
リクライニングに改造したらしいシートをギリギリまで倒して、長い手足を縮めて眠っている姿は、穏やかだったがどこか行き場がないようにも見えた。
こんなところで寝るな。パイロットなら体調管理に勤めろ。今思えば偉そうにそう言って、自室で寝付けないならと無理矢理竜馬を自分の部屋に連れ込んでからーーそれからだ、少しずつ、再開後の竜馬が自分に表情を見せ始めたのは。
あぁ、そうだっだ。行き場がないと思った時、竜馬はふらりとゲッターの元に行ってしまうのだ。
大切な人の心を追い詰めかけていたことに、隼人はやっと気付いた。同時に、竜馬がそのぐらい己の存在に重きを置いてくれていることも、やっと自覚した。
「ずっと、一緒にいてくれ」
「…」
幾度か瞬きをした後、竜馬はふっと笑った。
「ここまで来といて、やっぱ今更じゃねぇか…。俺だって、おめえと一緒に居てぇと思ってなかったら、ここにいねぇよ」
「…竜馬」
「甘やかしてくれんだろ、隼人、ちょっと耳貸せ」
片腕で自分を組敷いている背中に抱き付いて、竜馬は隼人の耳に唇を寄せる。
『おめぇのこと、好きだぜ』
その後に更に小声で『…だからよ、もー限界なんだよ、シてくれよ』と続いたのだが、隼人の脳は竜馬にお前が好きだと言われた瞬間、全ての動きを止めてしまった。
恐らく、初めてだった。意識のある時に竜馬のその言葉を聞くのは。
「…竜馬」
「つぅかてめぇ、キスだけしてほっとくとか生殺しじゃねえかよ……ん?え、な!おめぇ…な、なんだよ!おい、どうした?隼人!」
隼人の目元が当たっている自分の肩口の衣服がじわりと濡れていくのを感じて、竜馬は慌てる。
竜馬、と何度も名前を呼んだが、その声は掠れて言葉にならなかった。悲しいわけではなく、単純な喜びとも違う。見知らぬ感情が押さえきれなくなり、隼人はそれに逆らうことができなくなっていた。流れるに任せるしか無い涙は、無理矢理止めない方が良いと判断した竜馬が『やっぱ、俺が甘やかしてんじゃねえか?これ』と小声でぼやきつつ後ろ髪を幾度かあやすように撫でてくれても、暫しの間止まらなかった。

———————

結局、ヤりすぎで一旦穴を開けることになったのは真の方だった。自分では本調子のつもりだったのに、サーガに多少休息不足だったのを見抜かれたのだ。
しかもそうなったのは、隼人の言うことを聞いた翌日でなく、それから人間時間で数日たってからのことだった。
「っとにあの野郎…調子乗ってやがる」
休憩時間に会議室にもしている共用スペースのソファに腰掛け、竜馬は険しい目付きで呟いた。そうやって硬い表情をしていると、とても昨夜男の前で身体を開き、揺さぶられるままに蕩けていたとは思えない。
ベッドを一つにしてからというもの、隼人の竜馬に対する接触は、まだ上があるのかと驚く程に密さを増している。毎晩毎晩、蜜月ですらもう少し薄味なのではないかと思うほどとろとろに甘やかされ可愛がられれば、その度竜馬の方もいけないいけないと思いながらも流されてぐずぐずにふやけてしまうのだ。あれが本来のあの男の愛し方なのならば、やっぱりちょっとぐらい距離がある関係でいた方が得策かもしれないとすら思えた。
「よ、おつかれさん」
「うわっと!」
母艦勤務のネオに突然後ろから首筋を撫でられ、真は肩をびくりと跳ねさせた。
「な、なんだ、ネオかよ」
「キスマークついてたぜ。髪の間から見えちまってる。その分じゃ司令とはうまくやってるみてぇだな」
「…まじかよ。…まぁ、なんだ。上手くいきすぎんのも考えもんだな」
うなじのほくろの辺りだ。見ずとも解ってしまいそこを押さえながら嘆息すると、ネオは『違いねぇ』と言って笑った。
「でも司令、最近すげぇ調子いいみたいだぜ。うちのが驚いてた」
「まぁ、調子わりぃよりはそっちの方がいいけどよ」
「やっぱ真は、何だかんだで甘やかすんだよなぁ」
「あんまり調子乗りやがったらぶん殴って止めるからいいんだよ」
「はは、そりゃあ解りやすくていいや」
にししと歯を見せて師範は笑った。
「でも新のとこの若ぇのが最近元気無いらしいぜ」
「?なんでだよ」
「あいつだけきいて貰えてねぇみてぇだぜ『何でも一つだけ』ってやつ」
「…確かに、新のやつ乗り気じゃなかったけどな」
「あの若ぇのも研究研究で部屋帰ってなくて、うちのやつとかがその話してたの聞いて、はじめて知ったらしいからなぁ…」
成る程。間が悪かったのかと真は思った。しかし、向こうのことは向こうのことだ。新のところも色々あったが続いている仲なのだから、放っておけば自分達でどうにかするだろう。
「ふぅん…。ちなみに、お前んとこの隼人は何頼んだんだ?『言うこと聞いてやる』って言ったら」
「えっ…!な、なんでンなこときくんだよ!つーかお互い聞かねー方が良いだろそんなこと!」
一気にかぁっと真っ赤になったネオを見て、その分かりやすさに真はくつくつと笑う。
「ん、まぁそうだけど…その分じゃやっぱエロい感じだったんだな」
「…お、おめぇまでからかうんじゃねぇよっ!」
「向こうじゃ結構な年まで一緒にいたんだろ?久し振りで燃えてるって感じか?」
「いや、俺たちゲッター線のせいかあんまし老けこまなかったし、あいつ結構年甲斐無かったからそんな…って!ど、どーでもいいだろそんなの!」
性根の素直さがそのまま外に発露されているためか、人の身では他の三人よりも随分長く生きていた癖に妙にからかい甲斐のあるネオに、真は破顔した。
「…おめぇもよ、結構よく笑うようになったな」
「ん?」
「良い感じじゃねぇか。もうあんまりコクピットで寝んなよ」
「あ、応」
どうやら気にかけられていたらしい事を察して、真は素直に頷いた。
まぁ、次あっちに行くとしたら、本当にゲッターとの同期調整が必要な時か、隼人の溺愛に辟易して距離を置きたくなった時だろうと真は思った。
(まぁ、それはねぇか…)
前者はともかく、後者はこの様子じゃ暫くは無さそうだ。今だって、あの部屋に帰ることはどちらかというと楽しみだ。
可愛がられるとマタタビが効いた猫のようになってしまうことはまだ自分でも認めたくない事実だったが、知っているのが自分の隼人だけなら別に構わない。
「まぁ、惚れちまったもんは、仕方がねぇよな…」
暫しの空白のあと、誰に聞かせるでもなく真がポツリとそう呟くと、それを耳ざとく聞き取ったネオが『あぁ、そうだな』と笑い混じりに返した。
恐らくサーガや新がここにいても同じようなことを返すだろう。そう思って真は、昨夜隼人に何度も口付けられた名残の残るうなじを、自分の指先でそっと撫で上げた。

——————
はぁ、竜馬同士の会話かいてると心ぴょんぴょんするんじゃ~~~^^
チェンゲ竜馬があまあま展開に免疫無さすぎてすぐ泥酔状態になっちゃったらかわいいなぁという妄想でしたとさ。
絶対ネオ師範はエロさをからかわれている(でも五十歩百歩)
新ゲ二人のぐだぐだも別口でかきたいー。

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