昏いゆめ(新ゲ隼竜。 地獄変がらみ。暗い。)

新ゲ地獄変がらみの時系列とか色々すっちゃかめっちゃか、捏造まみれな一応はやりょうSSSです。所々間違ってるかも知れないところはおいおい直します。
―――――――――

何か虚しいものが、胸を通り抜けていくような心地がした。
そう感じた瞬間、意識がぼんやりと浮上する。
ここは何処なのか。どうやら硬い場所に臥せっているらしい。いつからかは解らない。知ろうにも身動きはとれない。
周囲の様子を確認したくとも、視界は酷くぼやけ、ただ無彩色が連なっているばかりだ。
何も動かない。流動する世界が俺の外にあるはずなのだが、それらを明確に感知する事が出来ない。
こんなことはそう無かった。あらゆる『識』は希薄で、繋ぎ止めなければ流れ去っていきそうに思える。
昔、高熱にうなされた時のことを思い出したが、あの時のような身の内で生が悶え犇めいているような煩わしさはない。
おそらく、ひどく冷えている。
全てが無機質で、今にも熱のない白光の中に消えていってしまいそうだった。

地面が少し震えた。何かが近づいてくる。二足だ。走っている。これは、おそらく男の足音だ。時々止まって、また動く。そうやって少しずつこちらに近づいて来る。騒がしさに、どこか懐かしさを覚えた。
はぁはぁと切羽詰まった息遣いが聴こえる。どこかで、聞いたことがあるような。
――あ!
耳に届いた声は知っている男のものだった。応えたいが生憎声がでない。そもそも呼吸をしているのか、俺は。あるのは外界を関知するうっすらとした感覚だけだ。
足音が大きくなる。五月蝿いほどの近さだ。俺の意識に程近い場所で立ち止まり、粗い息を落ち着けている。
――×××…!
呼ばれた。成る程確かにそれは俺の名だ。だが、なぜそんな、痛切な声で呼ぶ必要がある。
――わりぃ……俺、まさかお前が乗ってるなんて思わなくてよ……弁慶がいた時点で、きづきゃあよかったのによぉ
なぜ謝られているのか。全く要領を得ない。
――わりぃ……×××……
事情を察することもできないままに、俺はやつに持ち上げられた。硬く冷たい地べたは遠くなる。しかし、これはどういうことだ?俺の身体は、酷く軽く思える。
――×××…
散々抱き潰した時にすら聞いたことのないような弱々しい声で、男は――『リョウマ』は、俺をよび、抱き上げた。
『俺』はすっぽりとリョウマの腕の中に収まってしまう。それがどういうことか理解できないまま、俺はその腕の中の暖かさを受け入れた。
両腕で抱き上げられ、竜馬の胸に顔が埋まったようだ。白くぼんやりとしていた視界に、パイロットスーツの浅葱色が映えた。それは俺にとってこの世界で唯一の、生きている色彩に思えた。
――×××……
まるで赤子でもあやすかのように、竜馬の腕が俺を包む。親に抱かれた記憶など等の昔になく、そもそも『あれら』の記憶など俺には不要だと思っていた。
だが、今俺を抱き上げている腕はあまりにも――こう称すること自体どこか癪だが、優しい。まるで今この時はじめて生まれ落ちたのではと錯覚しそうなほどだ。そして、筋肉質な硬い感触を有しているわりに、その居心地は妙に切ないものだった。
ぽたぽたと頬に数滴、粒しずくが落ちる。泣いているのか。こいつが。何故だ。信じられん。
らしくもないことをするなと伝えたかったが、言葉はやはり出なかった。ひゅう、と気道を風が通り抜ける音だけが数度響いた。やはり、この意識は呼吸とは異なるもので繋がれているようだった。
――……!
だが、それだけでも触れあっている筋肉には緊張が走った。
――はやと!
もう一度、今までよりもはっきりと、響くほどの声で名を呼ばれた。後頭部を持ち上げられ、上から降ってくる唇に、ひしゃげた息しか吐けぬ唇を塞がれる。
その瞬間、額の奥で何かが弾けとんだ。
緑だ。瞬時に、今の俺に必要だと断言できる色だ。
まるで回路が繋がりスイッチが押されたかのように、俺から伸びた何かが、口付ける男に向かい這い延びていくのが解った。これは何だ?俺も知らない器官だが、俺の意思に沿って、竜馬の肌を滑る。認識不可能な事象が我が身に起こるなど、常の俺にとってはおそらく非常に気に入らないことだが、疑問はじきにどうでもよくなった。
竜馬の首元に、『俺』の一端が届く。
――お前……そうか、いいぜ……
どうやら、了承を得られたようだ。改めて俺は竜馬の身体を這う。触覚だけでどこに触れているか解るのが不思議だった。首筋の浮いた骨、頬のライン、耳朶の弾力、そして
――!
睫毛の間に留まる目元の水を拭うと、やつが息を飲むのがわかった。
抵抗されないのを良いことに、俺はそのまま頬を撫でる。こちらの『器官』がどうやら硬い分、触れればその肌は柔らかく沈む。手のひらで触れるのとは違う、初めて知った触覚に、俺は恐らく我知らず夢中になっていた。
――……はやと、おれ……あぁっ……!
俺を持ち上げる腕に、力が込められる。
異変の理由を、俺は瞬時には理解できなかった。
入り込んでいる。頬に伸ばしているのとは別の『俺の一部』が、竜馬の皮膚の下に。まるで、コンセントを突き刺すかのように侵食している。
――ぅ……っん…ぁあっ!
焦りを覚えたが、俺にも止められるものではなかった。なんだこれは。一旦一部が入り込んだかと思えば次々と。背中を、首筋を、耳穴の中を。『俺』が次々と竜馬を侵食し、そして同化していく。
皮膚に入った何かを触媒にして、俺の中に映像が流れ込んでくる。これは、竜馬の記憶か?あれは…ゲッターロボだろうか。だが、酷く巨大だ。そして、見たことがないほどに『禍々しい』。
――ぁあ……んっ……は、ぁっ……
映像が流れ込む度に、竜馬の身体が跳ね、苦しげな喘ぎが漏れる。理由はわかる。甚だ不快だが、俺の一部がやつの皮膚の下をかき回す度に、新しい映像が現れるからだ。だが、やつはけして『俺』を抜き去らなかった。むしろ俺をいだく腕が、より力強くなる。抱き上げられているのは俺のはずなのに、まるですがるような強さだった。
――んっ……そう、だよな……はやとっ 
竜馬が何かを呟く。なにが『そう』なのか、俺には解らない。ひょっとして、俺の中に竜馬の記憶が流れ込むのと同じ様に、俺も竜馬に何かを見せているのか?だとしたら、一体何を?
――あいつ、あのまんまにさせとくわけには、いかねぇよな
『あいつ』といった瞬間、同時に叩きつけられたビジョン。その人物の様に、俺は驚愕し瞳を見開く。
その瞬間、視界が大きく切り替わった。

視界から程離れた場所に、俺と竜馬が共にうずくまっているのが見えた。
辺りは灰色で、所々に崩壊したコンクリートの瓦礫が積み上がっている。あまりにも寒々しい、何かの文明が消え去った後としか思えない光景だった。
その中心に踞る俺たちの姿に、不覚にも心臓が止まるかと思った。
軽い筈だ。俺の身体は上半身と、両腕の肘から下が見えない。だが代わりにその断面とおぼしき場所から、おびただしい数のコードのようなものが、竜馬に向かい伸びていた。これが先程知覚した身体の一部か。竜馬と接触してから生じた器官……だろうか。
竜馬の身体を無数に這いまわり絡み付く俺の一部は、やつをがんじがらめに縛り上げ、そして、その皮膚の下に突き刺さっていた。木の根のような筋が、竜馬のパイロットスーツの上やこめかみに幾つか浮いて、時にうごめいている。
そこまでされながら、竜馬は穏やかに瞳を閉じて、まるで愛し子にでもするかのように俺の頭を撫でていた。およそやつらしくもない筈なのに、妙に懐かしい表情だった。そんな竜馬の肉体を、俺も無数に延びるコードで締め付け、その肌の下に潜り込み侵食し、俺達はまるで一個の肉塊のように結びあっていた。
ゾッとしない、しかしなぜか憧憬を感じる光景から視線をそらせずにいると、竜馬の腕のなかの『俺』の首だけが、こちらに向けられた。
嗤っていた。にたにたと。同じ存在でありながら、焦燥感と嫌悪感を嫌が応にも引き出される、勝ち誇ったかのような笑みだった。
穏やかに瞳を閉じた竜馬の胸の中で、見知った顔の男が唇を動かす。
その言葉は、聴覚を介さずとも直接頭の中に響いた。

『これで、俺(こちら)のものになった』と――

―――――――

いつもより早く目が覚めたようだ。頭が重い。ベッドサイドの時計を見て、ほぼ真夜中に近い時刻に眉をしかめた。
なにか、酷く不愉快な夢を見た気がするが、思い出せない。
昔からそうだ。俺はその行為が得意ではない。なにか夢を見たという記憶はあっても、内容はほぼ毎回思い出せないのだ。
ただ、とある一件以来どうも様子のおかしい男の顔が脳裏に浮かび、俺はゆるゆると頭を横に振った。

意識がさえてしまったついでにデータのハッキングでもしようかと、俺は手早く着替えて部屋をでた。
窓際に面した廊下を歩きながら、先程から脳裏を侵食する男のことを考える。
奔放に奪われ、抱かれているはずなのに、俺の腕のなかでも瞳に宿す焔のような光を欠片も失わない男だ。
しかし最近の、いや、一度死んでからのあの男は、まるですがるようにねだる。抱かれることで、何かを忘れようとするかのような行為が数回も続けば、厭でも異変に気づく。
何が見えているのか、俺には解らない。訊いてもどうせ『まっとう』な答えなんぞ返ってこないことだけは解っている。何故なら俺たちの関わっている『アレ』が、本質からして『まっとう』などでは無いからだ。

(あれは――竜馬か?)
まとまらぬ思考の枝葉をぐねぐねと伸ばしながら、窓越しの霧にけぶる景色をぼうっと見るとは無しに見ていた俺の視界の中に、『ある男』が飛び込んできた。
靄に紛れ、研究所に背を向けて、おそらくここから離れていこうとしている。
そういえば、先程その前を通りすがったやつの部屋は、妙に静かだった。
胸の奥底から、焦燥とも恐怖ともつかぬ感情が、ぞわぞわと粘菌のコロニー建設のごとく広がる。

行かせてはならない。あいつは俺の望む真理のその一端を握る存在の筈だ。たとえあの人を食いそうな笑顔に、煩わしく感情を乱されているとしても。
行かせては――ならない『筈』だ。
俺の足は、目的地を変え、やつを追い始める。
しかしその足取りは、まるでやつを引き留めることそれ自体を怖じけるかのように、泥のように緩慢に動いた。

―――――――
2018-02-15

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