来るべくして来た世界:〔猟魔が時〕(新ゲ。隼竜。『昔不器用な恋人に』『アシンメトリー』の続き)

※クロスオーバーユニバースもの、『地固まる』で書いたネタの新ゲ編。一応『昔不器用な恋人に』『アシンメトリー』の続きです。
この話ではほとんど「こういういきさつでクロスオーバーユニバースにたどり着きました」という説明しかしていません。ていうかこれ只のぶつぎれのプロット…。
どちらかというと、個人的な新ゲはやりょう再会こんなんかな~ネタSSSに近いです。隼人28~9歳ぐらいかな…ギリギリの二十代。
そんなわけで、本編終了後の話を勝手にグダグダ考えている妄想の側面が強いので、好き放題やらかしてても大丈夫な方どうぞー。

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何時からかは、もう覚えていない。
ずっと、何かを変えなければいけないという原因不明の焦燥感が、怜悧に冴え渡る頭脳を嘲り見下すかのように、くすぶり続けていた。
先の戦いの蓄積データを解析しながら、隼人はふとそんな、あまりにも懐かしい感情を思い出した。

その運命が己に降り注いだのは偶然だったのか必然だったのか。それは今の隼人にとってはどうでもいいことだった。
時空の狭間を掻い潜った先にある、ゲッターエンペラーの座する宇宙。そこに、「新」と名された部隊を率いることとなるゲッターチームが辿り着くまでには、説明すると多少長くなる事情がある。

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竜馬が――いや、彼が駆るイーグル号が――隼人達の前に再び姿を現したのは、ネオゲッター試作機の搭乗テストの日だった。
象牙の塔。外界の者達からは恐怖混じりにそう呼ばれる敷島研究所にて、隼人は橘博士が指揮していたプラズマ動力の巨大ロボ開発に携わっていた。
橘は、あの晴明による東京蹂躙の際に、学会があった関係で現場近くに偶然居合わせたらしい。ギリギリの安全圏内から、ゲッターの姿を目撃し、その戦いの一部始終を見ていたようだ。
そして、どういうわけだかアレを見て「自分もあんな風に、厄災から人々を守るモノを作りたい」と強く願うようになってしまったらしい。
…実際には、最終的にあの一帯を跡形もなく破壊したのは、そのゲッターロボだったのだが。
しかし、渡りに舟のような存在に態々くさすようなことを教えてもどうしようもない。隼人はその点は黙秘し、当事者だった身分を利用して、そのプラズマロボ――名称は橘の強い希望もあり、ネオ「ゲッター」ロボとなった――の開発現場に潜り込んだ。
橘の正に奇特としか言い様のない人間性のお陰で、隼人はその裏に持つ企みを知られることもなく、早乙女研究所では実践まで至ることの無かった、巨大戦闘兵器の開発に関わり見識を深める事が出来た。
敷島に渡された古いゲッターの資料や、隼人がほぼ完全に記憶していたゲッターの設計資料を元に、マシンの開発は急ピッチで進められた。
敷島が保管していた早乙女の残した初期資料…そこには、隼人が考えたこともなかったある構想が記載されていた。それが本当かを確かめたかったが、すでにイーグル号はこの宇宙にはなく、残りの二機も国に収用された今となっては調べることも出来ず、開発を急ぐ日々のなかで、その事項は隼人の脳内に引っ掛かる、小さな刺のまま残り続けていた。

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元々、自分以外のテストパイロットには経験者である昔のチームメイトを呼び出すつもりだった。
だが、諸国行脚の僧として過ごしていた武蔵坊が「この時期に顔を出す」と連絡を寄越してきたのその日が、起動テストの日程にぴったりと一致していたのは、果たして偶然だったのだろうか?
彼が象牙の塔に来る前に、とある用事――武蔵坊は、彼女に頼まれて度々、地方の寺に眠る鬼の痕跡、頭蓋や角等の白骨化した一部の情報を収集し提供していた――で顔を会わせていた早乙女の娘、ミチルを連れ立ってきたのも、偶然か?
それだけではない。試乗テストの開始時刻と示し会わせたかのように、浅間山の地獄の釜が突如なんの前触れもなく噴煙を噴き上げ始めたのは?
けして運命論者ではない隼人も、このいくつもの仕掛けめいた符号には何らかの力が働いているとしか思えなかった。
天が叫び、地が唸ると同時に、ミチルが持っていた鬼の頭蓋骨――研究所に来る前に、武蔵坊から預かったものだったらしい――がカタカタと動きだした。驚いたミチルの腕の中から落ちたそれは、何処からともなく垂れ籠めた障気を纏う。いびつに肉を付け、いつの間にか納められていた片方の目玉が、怨めしそうにぎょろりと空を睨んだ。
姿を消していた鬼の復活を、示唆するかのように。
地獄の釜は火を噴き、天はどす黒く曇り、雷はまるで審判の日のラッパのように轟いた。
これじゃテスト飛行は無理だ。
無念そうに呟く橘に「あぁ…テストなんぞしている暇は無いらしい」と隼人は答えた。
その目には、予定行路のルートを映しているモニターの映像が――豪雷と共に浅間山上空に再び現れた、二体の巨大な鬼が映っていた。

「待てよう!二人しかいねぇ状態で勝てんのかよ?!」
「知らん。やってみるしかないだろう」
あたふたする弁慶を引きずり、袈裟姿のまま無理やりネオベアーの操縦席に押し込んだ。
「お!おめぇ早乙女博士に似てきてんじゃねえのか?」
「どうとでも言え。行くぞ」
ぎゃいぎゃい騒ぐ弁慶を無視して、己もまた白衣姿のままネオイーグルに乗り込み、ネオジャガーを自動操縦に切り替える。
「お、おい、このコクピット…」
以前のゲッターロボと全く変わらない操縦席の計器配置に、弁慶が目を剥く。
「隼人おめえ、こんなもん三機も作るなんて、まるでまた、三人で…」
「なんだ、御託を言ってる余裕があるのか?試作機だ、エネルギーもそう持たんだろう。さっさと蹴りをつけるぞ」
「も、たせるって…武器とかどうなってんだよ!」
「橘!サブモニターに装備とコマンドのマニュアルを表示してやれ」
「…おお!か、格ゲーみてぇだな…ていうか、コレもあんまし前とかわんねぇな」
「だが、出力や機動性は以前の真炉心ゲッターより数段上だ――ただし、あいつが乗ってない場合の、だがな」
「……解った。行こうぜ、隼人」
「ふん、やっと肝が座ったらしいな、行くぞ!」
竜馬の記憶に、なにか思うところがあったらしい。腹をくくった弁慶と共に、隼人は浅間山上空へ飛んだ。

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鬼自体は案外と呆気なかった。まるで以前のゲッターとの再戦を想定していたかのような二体は、ネオゲッターのスピードに翻弄され、敗れ去った。
ただ、それはこれから始まる猟魔ヶ時の、狂詩曲の序の一小節に過ぎなかった。
高出力のプラズマサンダーでくずおれた鬼の体から立ち上った血煙が、妙な蠢きを見せていることに隼人が気付いたのは、戦闘体勢を解除した直後だった。
「は、隼人――あいつ、まじかよ」
「フン、どうでもいいやつばかり、やって来やがる」
赤い煙が空にとどまり、うねり、広がり、随分と懐かしい、だが二度と目にしたくはなかった顔を形成していく。
にたりと笑った青白い口元。
『ふむ、我が知る‘ゲッターロボ’ではないのか…詰まらぬ』
不遜な物言いをする晴明の、血と靄で形成された巨大な相貌が、立体映像のように、ぐらぐらと煮え立つ地獄の釜の真上に浮かび上がった。

「な…あ、あいつ…竜馬がぶっころした筈じゃ」
『ふふふ、お前らごとき脆弱な魂の迎える‘死’など、我等にはとるに足らぬもの。…この時を待っておった…この地はゲッターの力に充ちている…これが、この力さえあれば、この魂を鬼の如く使役しよるあの忌まわしい神共も、あるいはほふれるやもしれぬ――』
「か、神を?ほふる?隼人、なにいってんだあいつ」
「……晴明、お前の言い様では、その地獄の釜から生ずるゲッター線はまるで、この宇宙にあるゲッター線と別物であるかのようだな」
「お、おい、おめぇまでなにわけわかんないこと言ってんだよ隼人」
隼人の言葉に、晴明は虚をつかれたように一瞬真顔になった。だが、次の瞬間いつも通りのにたりとした笑顔に戻る。
『ふん!お前らにはそんなことも分からぬのか。どうせ何故神どもがゲッターを警戒しよったかも、なにも知らぬのだろう。その分ではこの地に何が迫っているかも、知らんようだな』
「――迫るって、何が…」
『ふふ…待ちわびたぞ――流竜馬――この宇宙の道理を越えた、もうひとつのゲッター線に見い出されしあの身を喰らえば、我は更なる力を持って蘇る!』
高揚に声を震わせひとりごちる晴明の口走った人名に、隼人と弁慶はほぼ同時に目を見開く。
「竜馬!?晴明てめぇ、今竜馬って言いやがったのか?!おい!せ…!」
「神さん!武蔵坊さん!今すぐそこから離れてください!今再噴火の恐れがあると連絡があって…そのままじゃ巻き込まれます!」
しかし、弁慶の言葉は、橘の緊急退避を知らせる声に止められた。
「噴火!?だ、だってよぅ橘さん、今それどころじゃ」
「いいから!神君武蔵坊君早く!」
「み、ミチルさん…隼人」
「仕方がない、引くぞ――!」
やむを得ず、ネオゲッターは地獄の釜から距離をとる。
『ふん、尻尾を巻いて逃げ出すか…』
「くそ――おい、橘、データは収集できた…の、か――…!」
確信に触れかけたところを邪魔され、隼人は苛立ちを抑えてながら橘に声をかける。
しかし、その言葉もまた、途中で止まった。
鬼火に、似ていた。
それが何だかよく知った、緑の光がゆらゆらと、目の前の空間に漂い始める。
「おい、隼人、あれって」
「…りょ、うま…」
外界とは閉ざされたコクピットのなかにいるはずなのに、五感がびりびりと痺れるほどに反応した。竜馬。竜馬。竜馬。思考回路を追い越して、肉体が、いや、全神経が、彼の存在に向かって走り出しているかのようだった。
『ふふ、きた…か……いや、何?』
ぎょ、と目を剥き、晴明の相貌が焦りに変わる。
チ、ヂヂ、と地獄の釜を割き、無数の緑の閃光が。
まるで、地より生じて天をつんざく、さかしまの雷の如く。
『な、違う…余りにも、桁が違いすぎる…これは!これは!そんな!あ!ぁあ゛ぁぁあ゛ぁ――!』
早乙女が地獄の釜のふたを開けた時、いや、それよりも激しい緑光の激流。
まるで、強大な光の御柱のようだった。
「竜馬……竜馬!竜馬ァ――!」
あまりの光のエネルギーを受け止めきれず、一瞬で消し炭になる晴明も、橘の帰還指示も、その奔流の飛沫を受けただけでも装甲が半分溶けかけるネオゲッターの危機的状況も、気にならなかった。
緑の光の渦の中に、そこだけ金色に輝く一条の線があった。
そして、その中を舞い上がる、一粒の赤。
あの時すべてを置き去りにしていった筈のイーグル号が、緑の奔流を駆け昇っていく光景を、隼人はその目で確かに見た。

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竜馬が搭乗していたと思われるイーグル号は、翌日ひどくひしゃげた姿で浅間山の麓の森で見つかった。
「こいつだけ帰ってきたんじゃないか」「あれだけのエネルギーの中で、いくら竜馬でも身体が持つかどうか」
周囲のそんな声には一切耳を傾けず、隼人は彼を探し続けた。
第六感と言うしかない感覚が、叫んでいた。彼は手がとどく場所にいる筈だと、隼人はそう確信していた。
時を同じくして、再び浅間山周辺に鬼が現れ始めた。浅間山事態は早乙女が地獄の釜を開いて以来小康状態を保っていたはずだったのだが。
まるで、一度修正された歴史が、再び歪み始めたかのようだった。

「来栖丈」の名で、人里離れた山の中の病院に収用されていた竜馬を見つけ出したのは、ほとんど偶然だった。どうやら今度の鬼は様子がおかしい、本能だけではない「意思」を感じる。幾度かの襲撃を打ちのめした末そう感づき、鬼の一体を監視し続けた結果、それが潜り込んだ洞穴が、とある医院の地下に続いていたことがわかったのだ。
どうやらこの世界に捨て置かれた鬼共のなかにも、知能を持つものが現れ始めたらしい。それとも、人が化した鬼がそうなったのか。その病院に住み着いていた鬼の頭共は、珍しく人語を介した。
それらは言った。「我らを踏みつけ使役する神は、この男を恐れている。この男を取り込めば、神にあだなすこともできるやもしれぬ」と。
ゲッターに駆逐された種族である鬼にとって、それは随分危険な賭けだった筈だ。だが、彼らはどんなかたちであれ種の有り様を変えようとしていた。進化しようと、しはじめていたのかもしれない。
しかし、そんなことは隼人にとって知ったことではなかった。
ぐるぐると包帯につつまれ、意識を朧気とさせる薬を使われた状態で、竜馬は囚われていた。鬼共にまるで聖体かのように扱われ、儀式の贄のように殺されようとしていた竜馬を、隼人達はなんとかその病院に潜り込み、奪い返した。
鬼を殺すのは数年ぶりだったが、その肉のえぐり心地は、隼人の神経を嫌がおうにも昂らせた。
逃げ出すため、ぐったりとした竜馬の体を抱えた瞬間、隼人は、彼とはぐれてからずっと凍りついたままだった何かが、十年近い時を経て巡り始めたのを感じた。まだ、声も聴いていない。本当に彼である証左などなにもないにも関わらず、隼人は彼が竜馬だと確信した。

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恥ずかしい話だ。今でも誰にも白状したことがない。彼を連れ戻し、武蔵坊と合流する前の道行き、誰の目もないことを確認して、隼人は一度だけ、うつろなままの竜馬に口付けた。別に、眠り姫を起こそうとしたわけではない。だが、これに彼の意識が反応して、自分を認識してくれればと思わなかったと言えば、嘘になる。
もちろん、そんな願いは叶わなかった。だが、隼人の心は場違いな程の――今までにないほど、目の奥に熱いものが込み上げそうになるほどの――不思議な熱に包まれていった。

竜馬が覚醒したのは、追いたてる鬼を倒すため、その身をゲッターロボのコクピットに押し込めた後だった。
隼人と弁慶が竜馬を連れ出した直後だ。病院の敷地一帯に地鳴りが起こり、建物が割れ、地より巨大な鬼が現れた。
神にあだなそうとしたくせに、神より賜った武器はしっかりと使うつもりだった様だ。
いつ踏み潰されてもおかしくない状態の三人を救ったのは、象牙の塔より飛ばされた、三機のゲットマシン。修理が終わったイーグル号と、敷島が「先の大戦中」の借しがある権力者を脅し、無理矢理取り返したジャガー号とベアー号だった。
今思えば無茶なことをしたと思う。だが、ゲットマシンを見た瞬間びくりと反応した竜馬に、隼人は思うところがあった。戦闘のことを考えても、他の二機に乗せるよりもイーグル号に乗せた方が安全だった。
イーグル号のコクピットに半睡のままの竜馬を押し込み、隼人はジャガーに、弁慶はベアーに乗り込んだ。
しばらくはそのまま戦闘を続けた。
敵の攻撃に斧で応戦するため、やむをえず合体してゲッター1になった瞬間だった。竜馬の目が、カッと見開かれたのは。
その瞳は、緑の螺旋を帯びていた。

「はや、と?…弁慶…?」
自動操縦を解き、驚くべき速度で目の前の敵を叩き伏せた竜馬は、全てが終わったあと、呆然とした表情でそう呟いた。
やっと己の名を呼んだ竜馬を見つめて、それでも隼人は何か、違和感が胸の奥に生まれるのを感じていた。

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「やっぱ、おめぇは気付いて来やがったか…ゲットマシン、借りるぜ」
しばらく象牙の塔で静養した後、夜中に部屋を抜け出した竜馬を追った隼人は、気付いていた彼にそう言われた。
記憶が戻ってから数日、竜馬の様子はあまりにも昔と変わらなかった。橘は話に聞く流竜馬の無作法さに驚いていたが、敷島は彼をいたく気に入ったようで、竜馬もまた、このわけのわからない老人はなかなか面白い奴だとおもっているようだった。
敷島博士は成る程、有事になればなるほど手が早かった。早乙女研究所のゲッター線回収システムまでーー最終的に早乙女研究所で使っていたものと比べると幾分旧式だがーー全く同じものを急ピッチで作り始めた。戦闘がある。つまり血が流れる。それが老博士には、楽しくて仕方がないらしかった。
『なんでぇ、おめえら年相応に老けちまいやがって…変わんねえのは鬼娘だけじゃねぇか』
『…まぁ』
昔なじみの顔を見て、ぶっきらぼうにそう言った竜馬の言葉に、ミチルは一見無表情だったが明らかに身にまとう空気を緩めていた。
『老けたっつうか大人になったんだよ!隼人なんかこいつあの後も背ぇ伸びたんだぞ?おめぇ並ぶと前より小さく見えるじゃねぇか』
『あぁ?んだと弁慶てめぇやんのか!』
そんな風に、依然と全く変わらないノリで絡み合う竜馬と弁慶を、周囲はやれやれと言いつつも微笑ましく見つめていた。
ただ、隼人だけは、竜馬が妙に他のゲットマシンのありかを知りたがることと、向こうで何があったのか語らないことを気にかけていた。
そして、隼人の予感は当たった。
竜馬が指差したのは、研究所の敷地内にある倉庫だった。二人が顔を突き合わせている所内の植物園から少し離れた場所にあるそこには、ゲットマシン三機が――イーグルだけではない。ジャガーとベアーも一時的に――格納されていた。
竜馬の周囲の花や葉は、彼の感情に合わせてゆらゆらと、蛍火のような緑の光を漂わせた。植物園の夜の闇に、患者服の竜馬と白衣姿の隼人と、二人の白い影が、うっすらと緑光を受けながら浮き上がった。

「あんの野郎…変形しやがった!」
なぜ、あれを持っていこうとしているのか。
訳を聞くと、そんな言葉が帰ってきた。
竜馬が言うにはこうだ。向こうの宇宙での戦いの中、やっとあの巨大なゲッターに刃がとどく場所にたどり着けたらしい。向こうの方からこちらに来たんじゃないのかと尋ねると「そう、かもしれねえ…でもとにかく、近かったんだよ」と返ってきた。
こいつを倒せば何もかもが終わる。こいつを倒せば。殺せば。消してしまえば――!
今までにないほどの純粋な破壊衝動、それ以外のすべてを忘れるほどの欲望に身も心も染まった次の瞬間、目の前のゲッターが、姿を変えたらしい。
それは認識できぬほどの一瞬だったようだ。ゲッター2に似た機体の繰り出すドリルに翻弄され傷つけられ、ゲッター3に似た機体に叩き伏せられ、ついで鮮やかに顕現したゲッター1のビーム攻撃に直撃を受けた。呑みこまれるかと思った次の瞬間、目映い光の渦のなかに取り込まれ――気がついたらここにいたらしい。
「イーグル号だけじゃ変形出来ねぇんだよ…くそ、あそこに、おめぇらはいねぇ筈なのに…なんで」
そう言ってくやしげに俯く竜馬の言葉の意味は、隼人にはにわかに理解しがたかった。しかし、彼がこのままではダメになることは、容易く想像がついた。
「竜馬、お前の単純な脳ミソは、ゲットマシンが3機あればどうにかなると思っているらしいが」
「…んだよ、隼人てめぇ止めるつも――」
「魂も入っていない傀儡なんぞ持っていったところで、何の役にたつと言うんだ」
「――ッ」
もしも、己が運命を乗り換えられたのだとしたら、それはこの瞬間だったのかもしれないと、隼人は思った。
弾かれたように顔をあげ、竜馬は、隼人を見た。彼の瞳の中に、自分の姿が像を結んでいることを、遂に隼人は確めた。
「じゃ、ぁ、どうすんだよ――まさか、おめぇ、来るとか言い出すんじゃ」
「おう!俺もそのつもりだぜ!」
「!弁慶!?」
緊迫した空気を壊したのは、竜馬と隼人が軽々と飛び越えた植物園の外柵を越えようと、なんとかしがみついて顔だけ出している弁慶だった。
「おめぇらいっつも俺をほっといて勝手に話進めやがって!竜馬、俺だっておめぇが抜け出したのは気づいてたんだぜ!つぅかおめぇら足早すぎんだよ!後隼人!この柵チクチクしていてぇんだがどうにかならんのか!」
「……」
「……」
暫く、隼人と竜馬は二人共にポカンとした顔をして、罠にかかった狸のような弁慶の間抜けな姿を見ていた。そしてしばらくして、竜馬は声を大にして、隼人は俯いて堪えるように、笑い始めた。
「お、おまえら、笑ってんじゃねぇよ!」
顔を赤くした弁慶の怒号が、夜の闇に谺した。

「こっちに来たッつーことはよ、敵も三対一じゃ多勢に無勢だと思ってんじゃねぇか?」
「っせぇ、くそ…舐めやがって」
そんな会話をしながら、三人は敷島研究所に戻った。身体に張り巡らされた緊張が失せてしまえば、夜風が妙に心地いい夜だった。
「んだよ、もう逃げねぇよ…好きにしろっつっただろ」
研究所内の自室に竜馬を連れていき、中から鍵をかけると、竜馬はそう言ってむくれた顔を見せた。
「あぁ、そうだな。まあ、ゲットマシンだけ奪うなら、今じゃなくとも、七十年後でも百年後でも、どこに飛んでもよかったはずだ。俺達に再会しちまったのが、運のつきだと思うんだな」
「!」
思ったままを言葉にすると、竜馬の顔が意外にも、ショックを受けたかのように歪んだ。
「…?どうした」
「っ、ちげぇ…俺は、会いたくなかった訳じゃ、ねぇよ…会いたくねぇなんて…んなことっ」
「…」
竜馬の瞳が潤んでいるのを、隼人はなかば信じられない思いで見つめた。
「竜馬…」
思わず頬に手を寄せても、竜馬は抵抗しなかった。しかしその身を抱き寄せて、勢いのままに唇同士を会わせた後は、竜馬はどこか辛そうな表情で隼人を見ていた。
「…竜馬?」
「お、おめぇ、あの後もう十年近くたってんだろ…俺がこっち帰ってからも、んなことしなかったのに、なんで…」
あぁ、そうか。こいつは意識がなかったんだった。
そう気づくと、らしくもなく不安げに見上げてくる彼が、たまらなかった。
「…俺がーー俺の方からこうしたいと思うのはお前だけだ」
「――?!」
「ずっと、待っていた――ちがうな、本当はどうにかしてお前を、追っていこうとしていた」
「お、うって…そんなに、おめぇ、ゲッターのことが」
「気になるな。そのためにはお前のそばにいた方がいいと言うことも事実だ。だが」
「ぁ……」
ぎゅう、と腕のなかに抱きすくめれば、彼の匂いが鼻孔をくすぐった。これがほしかった。こいつとこうしたくて仕方がなかった。
今更、隼人はそれを実感した。
「なぜ、俺はこんなにゲッターを、お前を諦められないのか、ずっと考えていた」
「そ、そりゃ、おめぇの性格がしつけぇからだろっ…ん、や、み、耳元でしゃべるんじゃねぇッ」
「…みもふたもないことを言うな。竜馬…なぁ、俺は初めは、ゲッター線を利用しようとしていた」
「っ…知ってらぁっ…あ、てめ、話す、なら、集中できる状態でっ…っわぁ!」
耳元に、口元にキスを落とし、隼人は少しずつ、ベッドに向かい歩を進めた。竜馬は戸惑っている様子だったが、その手はむしろ隼人の背に回されていて、そのしぐさが彼の勇気をこれまでにないほどに奮い立たせていた。
気が急いた隼人は、ベッドの上に竜馬を押し倒し、自分の存在で組敷いた。
「は、はやと」
「だが、今は違う――知りたい、あれがどこからきてどこにいくのか、どれほどまでに底無しなのか、そして」
顎を固定して、竜馬の顔をこちらに向けさせ、隼人は言葉を続けた。
「肯定したい、あれと共にある、おまえを」
ゲッターと切っても切り離せぬもの。
この宇宙の全ての歯車を狂わせる運命に縛られたもの。
そして、その己の運命を知ってなお屈せず、全ての闇をその手で断ち切るために…自ら独り、地獄へとおちていったもの。
隼人の瞳のなかに、他の誰でもない、流竜馬の姿が映っていた。
「こ、こーてーって、グ、グラウンドのことか?なにいってんだおめぇ?」
「…お前らしい」
何のことやらわからないらしい竜馬に、隼人は穏やかに目を細めた。全く、馬鹿が可愛くてしかたがないとは、己も随分府抜けたものだと思う。
「お前にも分かりやすく説明すると、そうだな」
恋か?と問われれば、近いが違うように思う。愛か?と問われればやはり同じように思った。足りない。どちらの意味も、己のうちで燃え立つ感情を表現するには足りないように思えた。
だが、人類が今まで作ってきた言葉で一番わかりやすいものはそれだった。
「俺は、ゲッターには並々ならぬ興味がある。そして同時にお前がーーそうだな…好きだ、とか…愛しているだとかがーー近いな」
「す…」
ぱっと、竜馬の頬に朱が散った。
「嫌か?」
「ぁ…う、ぁ…」
じ、と見つめると、竜馬の表情がどんどん泣きそうに歪んでいった。しかし、その表情は嫌がっているものではなかった。
嬉しい。彼の情動に触れられることは己の幸せに欠かせないものなのだと、隼人は悟った。
「こっちは何年も待ったんだ。嘘をついているとは言わせねぇ」
「ん、んなもん!おれだってずっと!」
やっと、竜馬が自ら動いた。隼人の背に腕を回して、彼にしては珍しく何かを確かめるようにゆっくりと隼人に抱きつき、肌同士を密着させた。
「忘れてねぇよ、おめぇの…はやとのこと、ずっと、俺だって…おめぇが…」
「…竜馬」
「はやと…俺…」
「いい、もう、なにも言うな、竜馬」
堪らなくなり、隼人は竜馬の唇を奪った。まるで奪い返すかのように、竜馬も積極的にこたえた。
竜馬の上着の裾にから手を忍ばせると、昔彼に触れた時と全く変わらない、しっかりとした感触が肌に返ってきた。
「はやと…お、おれも、触りてぇ…」
頬を染めて、彼にしては気弱な態度で、愛らしく眉を寄せてそうねだる竜馬のために、隼人は白衣の下に着こんだワイシャツのボタンに手を掛ける。
その後のことは、二人しか知らぬことだ。

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それから暫く、ゲットマシンの修理が終わり、地獄の釜が再び開くまでは、蜜月だった覚えしかない。何年もたった街を竜馬に見せ、色々なことを話し、何度も何度も彼と想いを確かめあった。
たしかゲットマシンの整理やら、たまに来る鬼の襲撃の撃退やら何やらで随分と忙しかったはずなのだが…思い出そうとするとどうしても竜馬との甘い時ばかり浮かんでしまう。
なんにしろ、ヒトの身だった頃で隼人があんなにたくさん笑ったのは、後にも先にもあの最後の数週間だけだった。

その日は朝からぞわぞわと、何かが来る予感がしていた。
次に浅間山のあの穴が開いたら、その時は三人揃っていく。その約束は、半分は果たされた。
半分というのは、厳密には三人だけではなかったからだ。
「な、んじゃありゃぁ!」
武蔵坊が驚くのも無理はない。
その日、地獄の釜が再度開いた。そこまでは、竜馬が帰ってきたあの日と同じだった。
しかし、その後地獄の釜から現れたのは――その穴にやっと収まるほどの、強大な機械の腕だった。
何かを求めるように突き出されたその腕は、空を掴んでは風を起こし、少し動けば周囲の森を破壊した。
「りょ、竜馬あいつなのか?おめぇが戦ってたっつっうのは…馬鹿でかくねえか?!」
「ん、いや、ありゃあまあ、それなりにでけえ方だな」
「ちげえのかよ!どうなってんだよ!」
「うっせぇ!やりゃあどうにかなるんだよ!なんだてめぇ、怖気づいたのか?」
「ん、んん、んなわけねぇけどよう!」
なんだかんだと怒鳴り合いながら、三人はゲッターロボに乗り込んだ。
「で、どうすんだよ、アレ…」
「あぁ、決まってんだろ?ぶったぎんだよ、コレで――ゲッター!トマホーク!」
そう言って、ゲッターワンは斧を取りだす。その斧は、実寸よりも数倍大きな、緑の光の刃を帯びていた。
「うお…すげぇ」
「へへ、こいつでぶったぎりゃあ」
「馬鹿か、こんなバカでかい腕、下に落ちれば被害は甚大だぞ」
「「う…」」
冷静に判断してバッサリと切る隼人に、竜馬と弁慶はばつが悪そうに黙る。
「じゃ、じゃあてめぇ、どうしろってんだよ!あんなもんつっかえてたら向こうに行くにいけねえだろうが」
『案ずるには及ばぬ』
「あ…あぁ!?」
竜馬たちにその音波が届くが早いか、天が曇り、地獄の釜の周囲は一面黒い雲に覆われた。
それは、以前ゲッターロボを拘束した、あの神の輪と似ていた。
光を放つ結界が、地から生えた腕を締めつけ、雷を落とす。
驚いたように硬直した腕は、しばしの間の後、ずるずると頽れていった。
「こ、の技…てめぇら」
『ふん、まさかまた、この宇宙でまみえるとはな…ゲッターロボ』
以前戦い辛くも勝利した神、四天王が、中空に姿を顕していた。
「…どういうつもりだ、てめぇら、今更のこのこ着やがって」
ぎろり、と竜馬は天を睨む。
『――様子を見ていた…本来なら、再び二つの宇宙が繋がり、我らが宇宙を覆う気が乱れることは、ゆゆしき事態…』
「へっ!相変わらずわけわかんねぇこと言いやがる金ピカだぜ…言われねぇでも出てってやるっつんてんだよ!さっさとそこを――」
『お前は、己が何をなそうとしているか、解っているのか?』
「あ、ぁ?」
『本来であれは不本意だが、今回は事が事だ。お前らばかりを監視していて、身中の蟲共に気づかなかった我らも未熟――。人間よ。これを、連れていけ』
「あ?蟲?」
「晴明や、あの病院の鬼どものことか――」
「晴明?なんか関係あんのか?…つうか、使えって何のこ…なんじゃありゃぁ!」
訊きかけた瞬間、曇天に隠れていた空の一部が割れ、光が差し込んだ。そこから見えた影の形に、竜馬は驚愕する。
「な!なんだありゃあ!龍か?」
「いや…機械の、龍―――機龍!?まさかあれが…早乙女博士の残した…!」
「隼人?知ってんのか??」
天を裂き、降りてきたのは、ゲッターよりも随分と大きな機械の龍だ。
『大概のことは、サオトメという男の記憶より知っている。それが遠い文明の残した技術の結晶体――ウザアラ――。主どもより解き放たれ、宇宙空間をさ迷っていた機龍だ。ーーその傀儡を、鬼から神にかえるやもしれぬ』
「な、何ごちゃごちゃ抜かしてんだ?隼人、どういうことだよ、説明しろ!」
「早乙女の…博士の残した初期の資料に書き残されていた。開発のためのメモというよりは見た夢の書き置きのようだったが…ゲッターロボは――真なる炉心を得、龍と一つになる時、本来行くべき場所へ、行く」
「龍と一つに?」
「俺は竜馬、お前のことかと思っていた。だがーーまさか」
「つまり、こいつとも合体しろってことかよ?だけど、どうやって…」
『その龍と共に、空間を超えろ。我々の手に負えるのはここまでだ…』
「…言う通りにするしか、ねぇみてぇだな」
「ああ、さっさと行くぞ、竜馬」
「おう、隼人、弁慶――ひるむんじゃ、ねぇぞ」
言って、竜馬はにやりと笑い操縦桿を握った。
『全く…本当にいくのね、貴方たち』
「ん――おにむ…ミチル…おう、行くぜ」
覚悟を決めたゲッターチームのマシンモニターに、ミチルの姿が映った。訊ねる言葉に、三人はそれぞれうなずく。
「ミチルさん…お名残り惜しいですが――」
「ミチル…今まで随分と、世話を掛けた――」
「おにむ…ミチル、じじいには似んじゃねぇぞ――」
『いいから。辛気臭いのは苦手よ。』
「…」
三者三様にそれなりに誠意を込めた言葉を送ろうとしたのだが、先ほどの隼人以上のバッサリとした切り様に、皆黙ってしまった。
『でもね、早乙女の娘として…これだけは言っておくわ――流君、神君、武蔵坊君…帰ってこなくてもいいから、死ぬんじゃないわよ』
「――応!」
『神さん!ネオゲッターのことは任せてください!』
『くそう!お前らの死に様が見られんのはつまらんが早乙女に免じてゆるしてやる。せいぜい行って、派手に散ってこい!』
モニター越しに、橘や敷島も勝手なことをわめいているのが聞こえた。
――随分と、甘ったるいな。
操縦桿を握り、空間を超える準備をしながらも、隼人はその言葉達が随分と心地よく胸に響いている己に苦笑していた。

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空間を超えた後、龍は他の三機と混じり合い、ゲッターロボは姿を変えた。――早乙女の資料の残した名称「ドラゴン」「ライガー」「ポセイドン」――は、他の宇宙でも同じ名称で呼ばれて存在したらしい。
ゲッター線に満ちた宇宙で戦い続けたドラゴンは、最後の戦いの中で更にもう一段階姿を変えた。聖ドラゴンに似ているというあの宇宙の『最後のゲッター』が作り出した、ゲッター線で燃える太陽。そこに叩き落とされた時、逆にその太陽を喰らい尽くし、ゲッタードラゴンは、別形態へと『進化』した。鬼神のような二本角に、悪魔のごとき黒き羽根。その形態は、ほかの宇宙で『真ゲッターロボ』と呼ばれていたものに似ていた。あの宇宙の最後の人類の証を屠るものと考えれば、その背負ったのが悪魔の羽根というのもさもありなんという感はあった。
あの宇宙の竜馬――というより『自分たち』の運命に蹴りをつけ、そして隼人はようやく『変えなければいけない何か』を自分が超えたことに気が付いた。
最後の生命を失い滅びゆく宇宙の中で、さて、これからどこに行こうか、帰るにしてもどう帰るかと悩むゲッターチームの前に現れたのが、この宇宙へのゲートだった。
それは、早乙女博士が言うところの、竜馬にとっての『地獄の向こう側』、そして隼人にとっての『真実を己自身の手でつかめる場所』への入り口に他ならなかった。とはいえ、実際に来てこの宇宙を一番気楽に楽しんでいるのは今のところ、肌の青い美女だの、羽根の生えた美女だの、様々な種族の『女性』を楽しんでいる武蔵坊だろうことは間違いない。

「なんだ、まだ資料室に残っているのか、若造は」
顎ひげを蓄えた老博士に声を掛けられ、隼人は振り向いた。
「その呼び方はやめろと言っているだろうが」
「他に呼びようがないのだから仕方がないだろう。それよりもさっさと帰れ、新が可哀想だろう」
「――あいにく、まだ調べ物が終わっていなくてな」
こちらの宇宙にたどり着いてから、隼人は焦っていた。後方支援のネオの二人は別としても、サーガや真に比べれば、己は圧倒的に経験と知識が足りない。竜馬を失わないために、ほかのチームに後れを取らぬために、知らなければならないことが山ほどあるのだ。それに――。
「拗ねているのか?新に『願い事』を聞いてもらえなかったことを」
「…」
竜馬は、ほかの隼人たちに随分と可愛がられている。博士も司令も大佐も、皆口をそろえて言う。『昔の竜馬を思い出す』と。
隼人より年上の大人の男達に可愛がられるのは――みな、元が隼人なこともあり――新にとってまんざらでもないことのようだった。下心がないのはわかっている。どうせみな、結局一番可愛いのは自分の竜馬なのだ。勿論、新が本当の意味で求めてくれているのは自分だけなことも、頭ではわかっていた。
だが、どうしても無理だった。自分以外の男に可愛がられ嬉しそうにしている新を見て、隼人は己では鎮めようがない嫉妬の炎に焼かれていた。
それでやさぐれて、しかしそんな弱みを新に見せる気にはなれなくて…自分をごまかすように研究に没頭していたのがいけなかったのか…。いつの間にか自分以外の大佐や司令は自分の竜馬に貰っていたらしい『飴』を、隼人はもらい損ねていた。
「お前が部屋に帰らなかったのがいけないんだろうが。さっき新に、今日は私があの若造を早く帰してやると約束したんだ。かわいい子に嫌われるような結果にさせないでくれ」
「…」
「まあ、可愛い子、といってもうちの竜馬の方が幾分素直だったがな。もっとこう、黒目がちでクリッとした、疑うことを知らない瞳で――ああ、堪らなかったな…。まあ、今となっては今のあいつの方が、私にとっては魅力的だが――」
「年甲斐もなく惚気るな…見苦しい」
「ははは、だが、私や司令が新と話すと、いつも最後にはお前の惚気だぞ」
「!!!」
ひどくわかりやすく、隼人は資料から顔をあげ博士を振り返った。
「…そ、れは、どういうことだ…」
解っている。自分でも、今の自分があまりにも単純で分かりやす過ぎることは解っている。
だが、今はわかりやすいと思われてもかまわなかった。そんなことより、自分の竜馬が自分のことをどんな風に思っているのか、その方が気になって仕方がない。
「どうもなにも、言ったままの意味だ。何の話をしても最後にはお前のことになる。まあ、言い方は素直じゃないが、要約すると「こっちきてから隼人があんまり構ってくれなくてさみしい」という感じだな」
「成程。解った。今日は帰ろう」
話を聞いて即、隼人は一度紙の形に変えたデータを、元の情報に戻すものともう一度後日解析しなおすものに分け始めた。普段はよく出歩く新が、博士の言葉を信じて今日は部屋でじっとしているかもしれないと思うと、堪らないものがこみ上げてきていた。
「ふ…飴を用意して待ってるだろう。せいぜいちゃんと貰うんだな」
「言われずとも、そのつもりだ」
頬を緩ませて話していた司令の話によると、なんでもひとつ、竜馬にわがままを聞いてもらえるらしい。
頼む内容なら、もう決まっている、というより一つしかない。
竜馬は、この願いを聞き入れてくれるだろうか。
心に祈る一つのことが、彼に受け入れられることを願いながら、隼人は帰り支度に精を出し始めた。

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