第三者 (サーガ初期。隼竜。モブ視点の二人)

サーガGと真の間ぐらいのはやりょう。
なにも知らない第三者から見た二人。

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憧れの早乙女研究所所員となってから約三ヶ月。只見守は悩んでいた。
早乙女研究所には、所員寮から通勤している。言わば単身赴任だ。勤務当初は、忙しさから郷里に残してきた妻子と思うように連絡がとれないことが寂しくてしかたなかった。
しかし、最新の研究設備や、未知のエネルギーゲッター線の持つ可能性への期待に胸ときめき、そして男なら誰しも一度は憧れる巨大ロボット、ゲッターロボを間近で見て触れることに研究者としての至上の喜びを感じたのも事実だった。
研究所の所員もかねがね穏やかで、しかし研究や仕事には真剣に取り組む尊敬できる人々だったし、所長の早乙女博士も厳しいが意外と茶目っ気もある人物だった。 しかも彼の娘は、彼女一人いるだけで場の空気が朗らかになる気立てのよい美人さんだ。
仕事のことだけ考えれば贅沢すぎる程恵まれている環境の中で、彼が少し対応に困っている人物は、ただ一人。
「あ、あの、神さん、こちら明日の会議で使う予定の、今回モニタリングしたデータの資料です!」
「ああ、ありがとうございます。そこにおいておいてください。」
ゲッターロボのパイロットであり、同時にゲッター線研究者でもある、神隼人だ。
嫌いなわけではない。早乙女博士の右腕として働いている彼は齢二十歳そこそこの青年とは思えないほど優秀で、同じ研究者として真剣に尊敬している。
だが、どうにも感情が読めないのだ。時折冷静すぎて怖くなることがあると言うか、人間味を感じないと言うか。
今彼は、デスクの上に詰まれている他の資料を一度脇において、只見が差し出した資料を表情を変えずに確認している。傍目にはただパラパラと紙の束をめくっているように見えるが、彼の脳内にはすべての情報が余すところなく入ってきているらしい。 数分もたたぬうちに分厚い資料の束に目を通し終えた彼は、白衣の胸ポケットからペンとメモ用紙を取りだし、何かを書き始めた。
「明日の会議までに、15ページからの実験結果のデータ、測定間隔をこのように直してもらっても良いですか?それと、誤記の修正も」
「え?あ…はい…」
そう言われてレポートとメモ用紙を渡され、只見は少ししどろもどろに隼人の言葉に返答した。
「よろしくお願いします。では、私はこれから第3会議室に行かなければならないので、これで。」
「え?あ、はあ…」
顔色一つ変えぬまま頭を下げ、そのまま席をたち踵を返す隼人の背を、只見はしばし呆けたように眺めているしかなかった。

————–

翌日、会議が無事終わりほっとした只見は喫煙可能な休憩室で一息着いていた。 妻には控えろと言われた煙草の煙が、ふわふわと無秩序な弧を描く姿を身ながら、只見は横の席に置いた資料に目を落とす。
(15ページからの実験結果のデータ、測定間隔をこのように直してもらっても良いですか…)
脳裏に、昨日の隼人の声が浮かぶ。
確かにあの議題でこのデータを使うなら、彼の指摘した測定間隔で数値を提示した方がより効果的かつ解りやすい。 本当に些細な違いだったが、指摘された通りにデータを修正する中で気付いたことは多く、自分の見識の浅さに、只見は感心すると共に、なんとなく立つ瀬のない感情を覚えた。
「はぁ…」
我知らずため息が漏れる。昨日眉一つ動かさずこの事を指摘した青年は、自分のことをただ年を取っただけの、一元的にしか物事を見ない研究屋と思っていないだろうか…。いや、思われていても彼がそんな感情を露骨に表すとは思えないが、次から顔をあわせたときにぎこちない態度になりそうで気が重い。
「お、只見さんタバコ吸うんだ」
突然、斜め上から降ってきた言葉に、只見は驚いてそちらを見上げた。
「あ、竜馬さん」
「リョウでいーよ。たいてぇ皆そう呼んでるし」
そう言うと歯を見せてにっと笑う彼に、只見は自然と気が緩むのを感じた。
リョウで良い、といった彼――流竜馬は、隼人と同じゲッターロボのパイロットだ。
パイロット以外にも研究員として働いている隼人とは違い、彼はほぼパイロット一筋の人間である。 何度かゲットマシンの訓練に立ち合って彼の操縦を見たことがあるが、赤い機体をまるで自分の翼の様に自在に操るその姿は、只見の網膜に『男子の憧れ』の実現像として焼き付いていた。
「ため息ついてたけどどーしたんだよ。奥さんと喧嘩でもした?」
資料を置いているのとは逆側の只見の横の席に腰掛け、竜馬は今しがた自販機で買ったらしいジュースの缶を開ける。
どうやら最近巷で言われ始めている復流煙は気にしないたちらしい。
つなぎの上を脱いだタンクトップ姿のその素肌は、とても健康的で張りがあった。己が若い時でもこんなに眩しいほどの生気を纏っていたことはない。間近でみた竜馬の肌理の美しさに、只見は暫し驚いた。はっとして、一拍遅れて質問に答える。
「いや、最近は電話も出来てませんよ」
「えー、子供も泣いてんじゃねぇの?」
彼の軽口は只見にとっては心地良い。普段は研究者と硬い話題ばかり話していることが多いせいか、彼の屈託のない言葉と明るい笑顔に触れていると、それだけでこわばっていた筋肉がほっとほぐれるような気がする。 そしてどうやらそれは、この研究所の他の所員にとってもそうらしかった。白衣だらけのラボに彼がふらりと姿を表すと、何となくみんな嬉しそうな表情になるのだ。まぁ彼が用がある相手は大抵チームメイトの隼人なので、あまり込み入った話をすることはないのだが。
「子供さん男の子?女の子?」
「女の子ですよ。もうすぐ5歳になります」
「へー」
「おてんば盛りでね、困ったもんですよ」
「へえぇ」
『可愛くて仕方ねーって顔してる』と笑いながら竜馬はジュースに口をつける。 首を仰向けているため、彼がゴクゴクとジュースを飲む度に、喉仏が大きく動いた。
「っかー!うめぇ!」
「はは、ゴーカイですね」
「ん?そーか?」
本当に、気のいい人だと思う。 敵と闘う時にはこの気のよさが嘘のように狂暴さを剥き出しにするらしい。だが、只見は竜馬のその姿をまだ見たことが無いため、いまいちピンと来ないものを感じていた。
もし本当に彼がまるで楽しむように闘いに身を投じるとしても、その理由は人々を守るための筈だ。
実際に戦っている彼を見れば、あぁ、闘いたくて闘ってる側面があるなぁと思うものなのだが、只見はまだ流竜馬のそういう一面には触れる機会は与えられていなかった。
「しっかし、おっせぇなあいつ」
「?…待ち合わせですか」
空き缶になってしまったジュースの缶をぷらぷらと指先で揺らしながら、竜馬は呟くようにいった。
「おー、隼人と昼飯一緒に食う約束してたんだけどよ、こりゃーまたなんか長引いてんなぁ、腹へっちまう…。弁慶がいりゃああいつと先に食っちまってたのによぉ」
「隼人さんと…」
「そー、あのヤロー、自分で言い出した癖によぉ」
竜馬の口から隼人の名前が出て、只見は改めて意外な気持ちになった。
竜馬と隼人は初代ゲッターチームの頃からのチームメイトである。付き合いが長いからなのかどうなのか…一見するとタイプが違いすぎて絶対にそうは思えないのだが、二人は傍目から見ても仲が良い。待ち合わせて共に食事を取るだけでなく、休暇が重なった時には二人だけで泊まりがけで出掛けることもあるくらいだと聞いている。
「…いつも不思議なんですけど、リョウさんと隼人さんって二人でいる時どんな会話するんですか?」
それはかねてより感じていた疑問だった。
「ん?隼人と…?そーだなー…別にフツーの世間話だと思うぜ?」
「…へえ」
さらりとそう返されると、それ以上突っ込んだ質問がしづらい。二人の普通の世間話の内容に興味を持ちつつ、只見はあいまいな相槌を返すしかなかった。
「でもあいつは、仕事の話してる時が一番熱入ってるかもなぁ。あ、只見さんのことも前話してたぜ」
「え?私のこと…ですか?」
予想だにしなかったことを言われ、只見は思わず上ずった声を出してしまう。
「おー、確か…」
「待たせたな、竜馬。あぁ、只見さんも、お疲れ様です」
只見にとっては気になる話題の、肝心の部分を伝えようとした竜馬の言葉は、休憩室に入ってきた隼人の声に遮られた。
「お、隼人!おせぇぞ」
「悪い。少し打ち合わせが長引いてな」
むすっとした表情を作る竜馬を宥めるように、隼人は素直に謝る。 只見は、竜馬と話す隼人の表情に普段は見せないような柔らかな笑みが浮かんでいることに気づいた。
「今日食堂のBランチ豚カツだっつってたから、楽しみにしてたのによぉ」
「悪かった…。売り切れてたら今度麓の飯屋に連れていってやるから、機嫌を直せ」
「…へへ、冗談だよ。普段は俺の方が遅れること多いもんな。お疲れさん」
機嫌を直せ?
普段の隼人からは予測もつかないような言葉がやけに自然に口からこぼれでる様に、只見は驚きを隠せない。
言葉だけではない。機嫌を直せと言った隼人の表情は、本気で困っているように見えた。竜馬からねぎらいの言葉を受けた時には、眦が少し緩んだ。本当にほんの少しそうしただけで、とても嬉しそうな穏やかな笑顔になる。そう言えば彼はずいぶん顔立ちが整っていたと、その事に只見はその時ふと気付いた。
普段は殆ど無表情か職場付き合いの控え目な笑顔しか見せない彼が、竜馬と話し初めてからはほんの数分で何度も表情を変えている。 神隼人が研究者ではなく一人の人間に戻る姿を見てしまった只見は、しばらくぽかんと二人の会話を見続けていた。
「よっしゃ!さっさと飯食いにいくか!じゃあまたな、只見さん。また色々話聞かせてくれよな」
「あ、あぁ、はい、リョウさ…ん…」
席を立った竜馬に笑顔で声をかけられ、こちらこそ、と竜馬の方を見上げた只見は、驚いた様な顔で自分を見ている隼人と目があった。
「ん?どした?」
それに気づいた竜馬が、隼人に話しかける。
「あ、いや…リョウ…か…」
「なんだよ。別にいいだろ?」
どうやら只見と竜馬がいつの間にか二人きりで世間話をするような仲になったことを驚いているようだった。
「いや、ちょっと色々話してましてね…リョウでいいと言われまして…」
何故か弁解したいような心地になり、只見はこれまでのいきさつをまるで言い訳のように説明した。
「………はぁ…」
しかし、どうにも隼人の態度は軟化しない。いや、軟化も硬化も彼の表情は確かにいつもと何も変わっていない筈だ。しかし、なんだろうこの彼の周囲に漂う重い雰囲気は。
先程竜馬に対して優しく微笑む姿を見た後だけに、彼の自分に向ける感情の読めない視線が、只見は情けない話だが正直怖かった。
「別にうちの所員なんて大体俺のことそー呼んでんだからいいだろ。…おめぇまってて偶然会って、そんで只見さんの娘さんの話聞いてたんだよ」
何かを察したのか、竜馬がまるで助け船を出すように口を開ける。
「娘さんの…」
そう聞いた瞬間、隼人の周囲に漂っていたピリピリした空気が一気に緩まった。 「5歳になる娘さんがいるんだってよ。かわいい盛りだよなぁ」
にこりと、普段の彼の男らしい表情を知っていると《可愛げ》を感じずにはいられない笑顔を見せて竜馬は只見にそう話を振った。
「え…あ、はぁ、はい。すいません、リョウさんはまだ若いからそんな話しても困るかなぁとは思ったんですが…ははは…」
「そうなんですか。それは、知りませんでした」
一度はなんともいえない不思議な雰囲気になった場は、いつの間にか和やかな世間話の場に変わっていた。
なんだかわからないが、隼人がまとう空気がいつも通りの彼のものになったことに、只見はひどく安心した。
「だからいくら只見さんの資料が詳しくてわかりやすいからって、たまには休暇もやんなきゃダメだよな。博士にあとでそう話しとこうぜ」
「…へ?」
何か企むように笑みを浮かべながら竜馬が放った台詞に、只見は思わずすっとんきょうな声をあげる。
「お前は…。いえ、本当に先程の会議でも、ありがとうございました」 「え!あ、いいえそんな!」
突然隼人に頭を下げられ、只見はひどく恐縮する。
「只見さんまだ来てあんましたってねぇだろ。こいつよ、見た目は愛想ねぇし…まあ正直こえぇ奴だけど思ったより悪いやつじゃねぇからさ」
「…怖いとは言ってくれるな」
本人を目の前にして言いたい放題の竜馬に、隼人の眉根が僅かに寄る。
「こえぇじゃねぇかよ、しつけぇし」
「気性がさっぱりした研究者などそうそういるか」
「あぁ…それはたしかにそうですね…」
隼人の切り返しに、思い当たる節が無いとは言い切れない只見は力なくだが頷いてしまう。
「そんなもん、おめぇや早乙女博士や敷島博士見てりゃわかるけどよぉ」
そう言って少し困ったように隼人に笑いかける竜馬を見て、只見はそういえば彼もまた、隼人の前では他の所員に対してよりずいぶん屈託の無い笑顔をーーともすれば、溺愛されている飼い猫が主人にだけ見せる無防備なしぐさのような愛らしい笑顔をーー向けていることに気付いた。

—————

「ふー…」
なんだかどっと疲れた気がする。 竜馬と隼人が去った休憩室で、自販機で買ったコーヒーを飲みながら只見は息をついた。
とは言え、そんなに嫌な疲れではない。 むしろ今朝までに比べれば幾分か脳内はさっぱりしていた。
(あれは、リョウさんがあぁだから成り立っている仲なのかもな…)
研究内容を理解しているわけではないが、自分がなにかに打ち込んでいることを快く受け入れてくれ送り出してくれた妻ーー何故か隼人と竜馬のやり取りを見て家族を思い出してしまい、只見は久しぶりに家に電話をしたくなった。

—————-

時間ギリギリだったが、食堂のカツ定食にはなんとか二人ともありつけた。
衣を噛みきりトンカツにかぶりつく自分を見ながら向かいの席で目を細める隼人に、竜馬はいつも通りの遠慮の無い態度で注意をする。
「おめーな、ああいう顔すんのやめろよな、只見さんびびってたじゃねーか!」
「すまん…だが、そんなにわかりやすかったか?」
竜馬の言葉に思い当たる節はありすぎるほどある。いつものことだ。彼は誰からも好かれるから、誰かと二人でいるのを見るだけで、隼人の心中は何となく騒いでしまう。
竜馬の不貞を案じているわけではない。ただ、幾度か他の男が竜馬に自分と同じ劣情を催しているだろうことを見透かしたことのある隼人はーーその度に彼なりのやり方で相手を牽制してはいるのだがーー彼が誰かにちょっかいをだされていないかが不安でしかたがないのだ。
「おめぇのわかりやすいとかわかりにくいとかは知らねぇけどよ、とにかくおめぇが怖い顔してて只見さんが怯えてたのは事実だろ?何で時々そうなんだよ。お前は」
「……言わなければわからないことか、それは」
「思い当たる節が理由じゃないことを祈ってるんだよ。その……ありえねーよ、お前以外の奴なんて」
数度回りを見渡して、近くに人がいないことを確認してから、竜馬は彼らしくない本当に小さな声で呟いた。
そのしぐさの可愛らしさと、かけられた言葉の意味に隼人は思わず口角をあげる。
「その祈りは無駄だったようだな。だが、お前がそう言ってくれるなら、次からは善処するさ」
笑って、隼人は自分の膳の味噌汁を啜る。
「善処ってな…くそ、ノーテンキなこといいやがって」
「いや、だが待てよ、お前からそんな言葉が聞けるなら、やはり妬くのも悪くないかもな」
やはりこちらも小声だったが、隼人のかける言葉に、竜馬はかぁっと頬を赤くした。
「調子乗ってんじゃねーよ!このバカ野郎」
げし、と竜馬は机の下で隼人の脚を軽く蹴る。その脚を自分の脚で外側からからめとった隼人は、どこふく風といった顔をしたまま、意味深に竜馬の脚に己の脚をすりつけ始めた。ほんのわずかな刺激だったが、隼人から与えられる[快]にはめっぽう弱い竜馬は、びくりと肩をふるわせる。
「っ!てめ…」
「ほら、さっさと食わんと飯がさめるぞ」
「…ちぇ、わかってるよ!」
あからさまに痴話喧嘩…というよりいちゃついているとしか思えぬ様子で食事をとる二人を、事情を薄々察している他の所員たちは、遠巻きに眺めていた。

妻を思い出すのも無理はない。二人はそういう仲なのだから。
いそいそと電話室にこもり、久方ぶりの妻と娘の声に頬を緩める只見がその周知の事実に気づくのはそれから数ヶ月後、所内のクリスマスパーティでしたたか酔った竜馬が、珍しく竜馬と同じようにしたたか酔った隼人に公衆の面前で唇を奪われ、そのまま抱き抱えられお持ち帰りされるのを目撃してしまった時であった。

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次のひみんなで昨日のことはよってて覚えてないふりした(クリスマスパーティーの話)

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