チェンゲはやりょで平和な世界パロ:縁日編SS付き


ほぼ原色に近い、夜目にも目立つ黄色い布の上に、力強い赤の太字で書かれた店名を見て、二人は暫し呆気にとられていた。
「……伝説の」
「ゲッタートマホーク……アメリカンドッグか……」
お得な二本入り!と続く煽り文字。
『おじさん!これください』
『はいよ、ケチャップとマスタード、足りなかったらそこの好きに使ってな』
屋台に並ぶ、幼い兄弟連れや友人連れを眺めながら、浴衣姿の竜馬と隼人はちらりとお互い目線を合わせ、苦笑にも近い笑みを浮かべた。

——————–

七時を過ぎてもまだうっすらと明るい夏の夕べに、ぽわぽわと提灯が並んで灯る。
綿菓子、りんご飴、チョコバナナ――まるで、昔となにも変わらない夏祭りの屋台の列。
「ゲッター1かよ、あれ」
「だいぶシンプルだな」
垂れ布の横側に描かれた、かろうじて二本角のロボットと把握できるイラストを眺める。
戦後のどさくさ紛れでやっていることだ。今のところ、咎めるものもいないのだろう。
ゲッター線自体は不可侵な扱いになっていても、結果的に二度の厄災を救ったゲッターロボはどうやら一部ではまだまだ人気が高いらしい。
13年の時を越えて現れ、最後の敵を倒してどこかに消えていったパイロットに至っては、失踪の数年前に殺害した相手が敵方の首魁の一人と見られていることもあり、半ば人に非ずのような……伝承に近い存在になっていた。だが、当の本人はそんなことは露知らず、もう一人、共に世界を救ったチームメイトと共に、祭りの雑踏に紛れ込んでいた。
「なんだ、買うのか」
懐から財布を取りだした竜馬を見て、隼人は意外そうに眉を上げる。
「ああ、せっかくだしな、味が気になるじゃねぇか」
ニッと口角をあげ、竜馬は屋台へ向かう。今日は傷を隠すために巻いている、赤い首巻がたなびくのを、隼人は見送った。
やれやれ、あんな屋台を出すぐらいだ、おそらく店主の男はある程度パイロットについても知っているだろうに――そんなことを考えながら待っていると、案の定暫くして、出店の奥から店主の驚愕の声が聞こえてきた。
まあ、あの出来事から更に10年たっているのだ、今更本人とは思われまい。恐らくあの男は『他人の空似』と言いはっていなすのだろう。
余計な混乱を起こさせないよう、おとなしく外で待っておこうと思う隼人だった。

——————–

去年こちらに戻ってきたばかりの頃、やっと正式に、慰霊と武蔵の墓参りに行けた後だった。地球の復興見学もかねて弁慶やその娘の渓、チームメイトの號や凱も一緒に夏祭りに行ったのは。
弁慶の知り合いの伝手で手に入った浴衣を着た竜馬の姿は、酷く新鮮に映った。その姿に強く惹かれながらも、言い知れぬ焦りを覚えたことを隼人は鮮明に覚えている。
戦闘続きの日々の中では自覚することは無かった、竜馬との外見的な年齢差。成長した渓や凱と並ぶ竜馬の姿は、自分や弁慶と居る時よりも――外見的に同年代に見えることもあり――とても、自然に映った。
同種の焦りを覚えたのはその時ばかりではない。
到着後、隼人や弁慶は過去の職場へ一時的に復帰した。帰す根がない竜馬は初めふらりと旅にでも出そうな雰囲気だった。隼人がそれを引き留めた後、弁慶や渓が勧めたこともあり、元タワー直属の治安警備隊の訓練指南役として若手の面倒を見ている。
訓練生たちの外見は竜馬とそう変わりない。視察を口実に竜馬の様子を見に行った隼人は、彼らの中に居る竜馬が妙に遠い存在に感じられた。
他にも、一緒に買い出しに行く時や、どこかに出掛ける時、隼人は幾度か、自分と竜馬の二人連れは、外見的に不自然に映るのではないかと外面には出さず苦悶することがあった。
そして、そんな思いをした夜には、彼と自分の繋がりをきちんと確認したくてたまらなくなり、いつもより幾らか偏執的に彼を求めてしまうものだった。

——————–

真ゲッターロボがなぜこの宇宙に戻ってきたのか。その調査はまだ終わっていない。
ただ、どうやらゲッター線を再度、人類のコントロール下に置き武力として利用しようとしている組織が有るらしいことが、ここ半年ほどの調査で分かってきた。
ゲッター線と人類の手をもう一度、確実にたち切らせること。それが、自分たちがここに呼ばれた理由なのかもしれない。
とはいえことはまだまだ調査中だ。だから、たまにはいいだろう。こうやって休みを合わせて、今年は二人きりで、夏祭りに『デート』としてやってきても――。
(だからと言って、気負いすぎだったか)
去年見た恋人の姿が忘れられず、今年は自分も浴衣を用意してみたが、竜馬の反応はどうも芳しくない。
並んであるいていても、視線を感じて彼の方を見ると、ふいっと顔を逸らす。
年甲斐もなく浮かれていると思われて呆れられているのだろうか。傷の浮く顎をさすりながら隼人は眉根を寄せた。
「なに難しい顔してんだよ」
「……ああ、買ってきたのか」
「おう」
竜馬に声をかけられて、隼人ははっと我に返った。

——————–

「お前も食うか?」
「いや、遠慮しておく」
「なんだ、油モンがキツイってわけでもねえだろ……まあいいが。じゃあ、いただくぜ」
出店が並ぶメインの通りから少し離れた、人通りの少ない道を歩きながら、竜馬は獲物に手をかける。
大きく口を開けて、思い切り食らいつく。竜馬の食いっぷりを眺めるのが、隼人は好きだった。
「ン…衣もやわらかくって――思ったより油っこくなくて美味ェ」
このハム先に食っちまったほうがいいな、とつぶやきながら、刃物部分に見立ててある厚切りのハムにかじりつく。
木の棒を残して、一本目を一気に平らげた。
「満足そうだな」
「おう、なかなか……しかし、まだそう年数もたってねぇのに、提灯やら露店やら、残ってたのか?」
「新しく作り直したものがほとんどだろう。地上は壊滅的に荒廃していたが……前も話しただろう、戦争後の復興に必要になるだろうデータは、どんなものでも出来る限り収集してあったからな」
「ああ、そうか――しかしまあ、にしてもはえぇな……」
少し離れた夜店の明かりを眺めながらつぶやく竜馬は、口元に彼にしては珍しい穏やかな笑みを浮かべていた。
しばらく遠くを見つめていた竜馬だったが、気を取り直したのか手元に視線を戻し、二本目を手に取りかじりつく。もぐもぐと咀嚼する頬にマスタードがついているのを見つけ、隼人はほほえましさに目を細めた。
「ついてるぞ」
「うお!い、いきなり触んなよ!」
そっと頬に指を滑らせると、竜馬はカァッと肌を染めた。
「なんだ?そう騒がんでも、どうせ周りにはばれやしない」
「うるせえ」
祭提灯は灯っていても、草むらが続く道沿いの人影はまばらだ。一応その先にある神社跡の参道に続く道として整備されていたが、行った先には石碑しか残っていない筈だった。
大抵は喧騒を逃れて自分達の世界に浸りたい二人連れなので、いくら目立つ背丈と容姿とはいえ、竜馬達のことを気にしている者は周辺にいない。そもそも、灯りも少ないためよく見えないだろう。
「逆側にも付いているな」
やっと自分の方を向いた竜馬に教えてやると、彼は一瞬むうっとした表情になり、ぺろりと舌で頬をなぞる。子供の様なしぐさに反して、夜目にも赤い舌のてらりとした色艶はどこか淫靡だった。
「取れていない」
「……」
こらえきれずにくつくつと笑いながら見たままを告げると、両手がふさがっている状態の竜馬は観念したように隼人の方に顔を傾けた。一度片手に持っているものをトレイに置けば良いだろうに――先ほど隼人の行動に焦った割に、はたから見ればどう考えても恋人同士としか思えない甘え方をする目前の男に、思わず苦笑した。呆れと喜びの入り混じった不思議な感情だった。
全く、そうやって甘えるから、俺が付け上がることになるんだ。そんなことを思いながら、隼人は竜馬のもう片頬を指先で払ってやる。滑らかな肌の感触に、そこに唇でも落としてみたくなったが、流石に暗がりとはいえ自重した。
「もういいぞ」
「おう……わりぃ、ありがとよ」
指先を離すと、にっと竜馬は笑う。今夜共に出かけて初めてだろう真正面からの笑みだった。
「ああ、礼ついでに、俺もやはり一口もらおうか」
「な……先に言え、もう一本しかねえぞ」
「そういうことだ、みなまで言ったほうがいいか?」
「……」
食べかけの二本目を持ったまま、竜馬は暫し戸惑った。横の男は随分と人の悪い笑みを浮かべている。
昔――同年代の頃だったら、この男がそんなことを望む筈はないと否定しただろうが、今ならば彼の大体の要望はわかる。先ほどの件もあって『甘えるな』と言い返せる立場でもない。
「くそ――ハムんとこ、とれよ」
暫し周りを見渡し、竜馬はハムの部分を隼人の眼前に持っていく。
望み通り連れ合いの手ずから食べられてやけに上機嫌そうな年嵩の男を眺め、竜馬は先ほどの隼人とよく似た感情になった。

——————–

祭りの活気を背に、二人は帰路についていた。
あまり屋外でしないようなやり取りをしたからだろうか、出店のある道を引き返す時も、二人ともに何となくふわふわした気分のままだった。
「まだ早いな、帰りに酒と夕飯でも買って帰るか」
「おう、さすがにさっきのだけじゃ腹あ膨れねぇからな」
夏の盛りよりだいぶ涼しくなった夜風に吹かれながら、並んで歩く。
建築途中のビルにかけられている覆いが、ゆらゆらとさざ波のように揺れていた。
「しかし、浴衣も着なれないと案外動きづらいものだな……帰ったら先に風呂にするか」
「――なんだよ、すぐ脱いじまうのか?」
独り言のような隼人の言葉が耳に入ったらしい竜馬は、まるで『勿体ない』とでも言うかのような声を上げた。
「竜馬?」
「似合ってんだから……もうちょっと、着とけよ」
街灯と街灯のはざま、暗がりで竜馬はきゅっと、隼人の浴衣の袖をつまむ。
見下ろした竜馬の頬は、先ほど触れた時より幾分赤みを増して瞳に映った。
思いがけず恋人の本心に触れることが出来た隼人は、考えるよりも早くバンテージ越しのその手を取り、自分の指先と繋いだ。

-------

イラスト・マンガ 一覧

一般向けの
・イラスト


・まんが

腐向けの(隼竜・竜馬受メイン)
・まんが&イラスト系


・日記ログ

そのほか
なんちゃってゲーム紹介ページ
着せ替えリョウ君

SS一覧

SS一覧

SSS一覧

クロスオーバー系SS / OVA&サーガ越境ネタ(設定はこちら)