ひきがね(サーガGと真の間あたり・隼人→竜馬のような両片思いのような)

「あれ?隼人は?」
いわゆる高校生と同年代だった頃から時はたち、竜馬も隼人も弁慶もずいぶん前に成人していた。
明日は非番の――といっても放っておけばどうせまた研究室に籠ってゲッター線研究に無駄に精を出すだろう――隼人を誘って寝入り前に一杯やろうと、最近のやつの根城である第4ラボに立ち寄った竜馬の期待は
「あぁ、隼人さんなら所内には見当たらないんで…多分今日は街に降りてますよ」
という、年若い研究員の一声により、あっさりと無に帰した。
「なんでぇ、あいつまた女ンとこかよ」
「ちょ、リョウさん!声がでかいですよ!」
「いーじゃねーか別に、誰がきいてるわけじゃねぇし。あいつ顔だけは無駄にいいからなくそ」
「…いや、でも隼人さんは顔だけでもないって言うか…」
「知ってるっっうの!だから余計腹立つんだよ!」
竜馬も最近知ったことだが、隼人は麓の街に女がいるらしい。しかも結構頻繁に抜け出すものだから、ひょっとしたら相手は複数いるかもしれないなんて言われていることもある。まぁその辺は竜馬も噂の範疇でしか知らないからなんとも言えない。なんにしろ、チームメイトのそんな浮わついた話を聞いて、面白いとはあまり思えなかった。だが――。
(まぁ、あいつならありえるだろーな)
脳裏にあのいつもの仏頂面が浮かぶ、ほんの少しの感情すら漏らさずとも、ただそこにあるだけでも、その面立ちは酷く魅力的だった。
形のいい薄い唇も、綺麗に線の通った鼻筋も、意外とまつげの長い切れ長の射るような瞳も、どのパーツを切り取ってもそれだけで充分に美しいものが、これまた行儀よく、寸分の狂いもない見事な調和をもってその細面の輪郭のなかに収まっている。
いつぞやミチルがTVの中のなんとかとかいうアイドルに熱をあげていたときも、竜馬はその横で隼人の方がよっぽどいい男じゃねぇかと思っていたものだった。
(くそ、あったばっかの頃はゲットマシン乗るだけでかなりビビってたっつうのに)
そんな過去の恥を思い出したところでむなしさの方が先にたってしまうくらい、隼人は面構えがよかった。ついでに頭もいい、IQ300だ。竜馬にはそのIなんとかとかいうやつがなんなのかすらよくわからなかったが、とにかく何十年だか何百年だかに一人の逸材らしい。さらに運動も出来るし腕っぷしもたつ。さしもの竜馬ですらまともにやりあったらどういう結果になるかわからない。そして射撃の腕もスタイルのよさも以下延々延々。
とにかく、あの妙にしつこくてねちっこくて時に冷酷ささえ感じさせるような性格さえよく知らない相手であれば、ころっと騙されてしまうだろうなというような奴なのだ、隼人は。
(嫌みなやつだぜ)
基本的に空手一筋で世間のことなんかなんにも気にせずにすくすくのびのび育ってしまった自分と比べると、非情に大人びている気がする。そう思ってよく似合うスーツ姿だの白衣姿だのを思い浮かべると竜馬の脳内にまた不条理な怒りがわいてくる。
「ちくしょーなんか知らんが腹立つ!弁慶でいいや、あいつ誘って飲む!」
「あ、弁慶さんは一昨日から出張でI基地の手伝いですよ。」
「ぬぁ!」

送迎車のドアを開け、軽く会釈をした後、麓へ下っていくその姿を見送った。
街中の人いきれで籠ったそれに比べると、早乙女研究所への道行きの空気はいくらか清廉で、いささか飲みすぎたかと思われる隼人の少しばかり淀んだ意識にも冴々と感じられた。
麓の街に浅間山早乙女研究所に関わる顔ぶれが集まって会合を開き、政府との折り合い等研究所の今後に関わる会議を行う。
その会合に隼人も参加するようになったのはいつ頃からだったろうか。確か始めは、ゲッターロボGを駆けて百鬼帝国を文字通り宇宙の彼方に葬りさってしばらくした頃だった筈だ。急に早乙女博士から付き添いを頼まれ、行ってみれば日本の自衛隊のお偉いさんがずらっとならんでいた。
隼人は、何故連れてきたのがリョウや弁慶ではなく自分なのかそのときすぐに察することができた。ついでに自衛隊のお偉いさん方の狙い――どうせ今回の件で日本の再軍備を許容する流れが生まれたことへの形ばかりの礼と、この早乙女研究所を己らの支配下に置けないかという打診だろう――も。
早乙女博士も隼人も、この打診に二つ返事で答えた。もとより早乙女研究所は国家機関だ。
ただし、実際に自衛隊の人間が研究所へ出入りし、しかもゲッターロボのパイロットに――という要請に対しては、慎重に段階を経てことを運ぶようにと再三の忠告をした。
というか、二人共理解していたのだ。あの赤い機体をあれほど見事に駆ることが出来る人間が、あの男以外にいるわけがないと言うことを。
いくら日本の軍部が目を皿にして探し回ったところで、いくら生え抜きの軍人を徹底的にしごきあげたところで――。
「流石に今時分は少し冷えるな」
砂利道をなるべく音をたてないように歩きながら、隼人はそう一人ごちた。赤い機体のパイロット――流竜馬のことを思い出したところで、隼人の思考はぴたりと止まってしまった。
(あいつには、また女のところに行ったとでも思われているのだろうな)
早乙女博士と共に極秘で動いているうちに、気がつけば研究所内でそんな噂が流れていた。だが、隼人には否定する気など毛ほども無かった。向こうさんがやたらと慎重な事もあり、この会合の事に関しては、所員たちにはまだほとんど通達は行っていない。そんな毒にも薬にもならない噂で隠蔽できるのなら、余計な策を練らずにすんで助かるとすら思っていた。――それは勿論、流竜馬に対しても変わらなかった。
はじめてその噂を耳にした後、竜馬は隼人にそれとなく――勿論、隼人にしてみれば即座に察しがつくやり方だったが――探りをいれてきた。それを軽くあしらうのは、隼人にとって一種の快感だった。なだめすかされて悔しがる竜馬のその態度を、自分への思いがさせた表情だとすり替えて楽しむ。随分虚しい一人遊びだとわかっていても、隼人は止められなかった。
隼人は、竜馬のことを好いていた。
いつ頃からかはもうわからない。殺人ウイルスに竜馬が感染していないと知ってひどく安堵した頃だったか、百鬼帝国の息がかかった病院から死んだとばかり思われていた竜馬を取り戻した頃だったか。――それともよもや、理想と現実の狭間で身悶え正気すら見失っていたあの日々から自分を引っ張りあげてくれた、あの出会いの日からすでに心奪われていたのだろうか。
とにかく、気がつけば竜馬は、隼人にとってなにものにも替えがたい相手になっていた。
それは精神的な範疇をあっさりと越えて肉体的な欲求としてすら首をもたげた。同じ部屋で同じ柄の寝巻きを着て寝ている。その事実の濃密さと自分達の関係の健全さの差異に虚しさを覚えて、部屋を別にしたいと打診したのは隼人だった。
『なんでぇ、俺らと一緒じゃ落ち着いてマスもかけねぇってか?』
そんな風に自分を見て笑った竜馬の顔を思い出す度、隼人はその相手をめちゃくちゃにしてしまいたくなる。無理矢理口付けて、その身体を組み敷いて思う様苛め抜いて、竜馬が快感の波に屈して意識すら朦朧とし始めた頃に、今更のように教えてやるのだ。毎晩こうしてしまいそうだったから、離れようといったのだと。
全く、妄想の中での自分自身は、どうしようもなく奔放だった。そしてその妄想の中の己と何一つ望みを果たせずにいる現実の己との間でまた懊悩は深まるのだ。
(我ながら馬鹿馬鹿しい…)
一つ息をつくと、隼人は早乙女研究所のいくつかある隠し扉の一つに手をかけた。解除キーは既に押下済みだ。今日は早乙女博士は同伴せず隼人一人での立ち合いだったので誰に気を使うということもない。幾つかの取り決めの報告は明日に回して、今日はもうシャワーを浴びて寝ようと隼人は心に決めた。

「…何故、お前がここにいる?」
「お、なんだはやとーはやかったじゃねぇか!まだにじまえだぜ?とまんなかったの?」
自室の扉を開けた瞬間、見に覚えのない酒の臭いが漂ってきて隼人は眉をひそめた。その原因が勝手を知りすぎた想い人のチームメイトだとわかった瞬間、さらに盛大に、苦虫を噛み潰したようにその表情はしかめられた。
間違いなく、竜馬だ。
しかも酔っている。
「感心しねぇな。人の留守に部屋に入り込んで酒盛りとは」
「へへーおどろいたろー」
「ああ、お前の思惑通りだ。満足したらさっさと部屋にかえって寝ろ」
「おれもはやともあしたひばんだろー」
「そうだな。だからゆっくり休め」
「なんだよ!かまえよこのすけべやろー!」
「お前な…」
「どーせおんなとよろしくやってきたんだろー!このすけべ!へんたい!えっち!はやとのえっち!」
「…!!」
えっちとかすけべとか、そういう言葉がどのくらいこちらの肉体及び精神にに影響を与えるのか少しは考えてもらいたいと隼人は思った。
酒で紅潮した頬が、少したどたどしい舌ったらずな口調が、肌寒い季節になっても室内では相変わらずなタンクトップから伸びる、弛緩した筋肉が柔らかくさわり心地のよさそうな腕が。竜馬の言う『えっち』という言葉と相まって、総動員で隼人の理性を殺しに掛かってくる。
「解った…変態で良いから…さっさと部屋に戻れ…」
もはや自分でもよくわからない妥協の仕方をして、隼人は竜馬の背を叩き、とにかく一刻も早く部屋に帰るよう促した。
とりあえず今のこの竜馬の紅潮した顔とさっきのえっち発言だけで3回はいける。だからもういいじゃないか神隼人。とにかく今は竜馬をこの部屋からだしてやれ。さもないとお前は永遠に目の前の男を失うことにもなりかねんぞ。
動揺する胸の底で念仏のように何度も自制の言葉を繰り返しながら、隼人はなんだかんだと酔った勢いでわめきちらす竜馬をなだめる。しかし、隼人のそんな心情を一体どのようにして竜馬が察せられるというのか。
「いーやーだー!今日はお前の部屋で飲むんだ!」
「日を改めろ」
「ちゅーってきもちいーのか?」
「………は?」
一体、今、なにを言った?この唇は。竜馬の発言の意味が汲み取れず、隼人は一瞬彼にしては珍しいひどく呆けた表情になった。
「だーからちゅーだよちゅー!俺したことねぇんだよ!やっぱり舌入れたりすんの?」
「し…舌…」
「そー、れろれろーって」
「れ、れろ…」
そう言って、目の前でべろっと出した舌を蠢かされて、隼人の思考は完全に停止した。なにも考えられなくなった脳味噌をおいてけぼりにして、ただひたすら目の前の竜馬の舌の動きを追う。れろれろ、というよりはちろちろというレベルで細かく上下する舌の動きは、ディープキスの際のそれとは少し異なって見えた。ああ、知らないんだなと思った瞬間、体の奥がどうしようもなく熱くなった。
「…やってみるか」
「へ?」
「あ、あぁ…いや、というか、お前キスもしたことないのか」
「なっ…!」
余りに刺激的な光景にから逃げ出さんとするため、しかしそれにしてもとんでもないことを呟いてしまった。竜馬の虚を突かれたような表情に我に帰った隼人だったが、続けた言葉で竜馬の怒りに火をつける結果になった。
「し、仕方ねぇだろ!俺ぁお前と違って」
「女とっかえひっかえする趣味はないってか?その年で唇の一つも知らねえ方が稀有だと思うがな」
「こ、このヤリチ…」
「やってみるか」
ほとんど売り言葉に買い言葉だ。これなら竜馬も受け流すだろう。歯牙にもかけられずこのまま適当に喧嘩になって今夜は終わり――拒絶されることを前提に誘いかけた隼人だったが、次の竜馬の行動に驚愕することとなった。
「あーいいぜ!やってやるよ!おらっ!」
思いっきり首根っこを捕まれて、怒りに彩られた竜馬の顔が面前に近づく。そして、そのまま
「…がっ…!?」
「………ぐっ!…ってぇ…!」
前歯同士がぶつかる鈍い音と痛み、そしてほのかな温かい感触を残して、竜馬の顔が離れた。
思いきりぶつけた前歯の固さよりも、その唇の感触の方が隼人の心に焼きついた。
ああ、知ってしまった、と思った。
「下手だな。」
「わっ?」
口元を押さえていた竜馬の手を除け、隼人は竜馬の頬を手のひらで押さえる。
「目は、閉じていた方がいい。」
「え、あ、う」
顔を傾けて、少し背をかがめて、隼人の唇は竜馬のそれと重なった。少しアルコールのにおいがする竜馬の唇は、普段隼人が想像していた感触よりも柔らかかった。
優しく、触れるだけのキスをしている間、竜馬は抵抗しなかった。
竜馬にはああ言っておきながら気になって仕方なく、隼人は口づけながら少しだけ目を開く。自分に言われた通り、ぎゅっと目を閉じている竜馬が可愛くて、思わず口角が上がりそうになった。

「悪かった。やりすぎたな」
「あ…いや…」
触れるだけに留めた口づけが終わったあと、竜馬は怒鳴るでも暴れるでもなく、口元を押さえて真っ赤になっていた。
反対に、隼人の顔はどこか色をなくしたようだった。
「何かさ…変な話かも知れねぇけど、お前がモテるってのはわかった気がする…」
既に酔いは覚めていた。他の唇なんて知らないから解らないが、隼人の唇は優しくて、心地好いと竜馬は思った。同じ男同士なのにこんな風に嫌じゃないと思うんなら、女だったらきっとメロメロになるんだろうなぁ、とぼぅっと考える。
「…別に、女と会っているわけではない」
「あ?」
そう言う隼人の声は、どこか上の空のようだった。あまり抑揚が感じられない。
「もうすぐ、所員に正式に通達があるだろうある仕事にかかわっていた。噂は目眩ましには便利だから、ほうっておいたんだ」
「へ?え?…それ、俺に言ってもいいのか?」
「なんのことだかわかるのか?」
「いや、さっぱりわかんねぇけど…」
「なら、無害だろう」
「………悪かったな」
ちょっと拗ねたような竜馬の表情を見て、隼人はやっと少しだけ笑う。
「さっきのは売り言葉に買い言葉みたいなものだったけどな…竜馬」
「ん?」
「俺は、どうも半端な事は出来ん性質なんだ。それはお前も知っているだろう」
「?……おう」
「……やはり、少し飲むか」
床に転がっていた酒の瓶を持ち上げる。まだ半分程度残っていた。テーブルの上にきちんと隼人の分のグラスも用意してあるのを見つけて、その笑みは深まった。
こと戦いにおいては信じられないほど敏いところがあるにも拘らず、今自分が言わんとしている事はおそらく全く理解しないであろうこの男に、どうやってそれを伝えようか。先程彼と触れ合った唇を指で触りながら、隼人は思案し始めた。

無印時点ですでに付き合ってる設定のやつもそのうち書いてみたい。

2011/11/25 up
2014/08/26 誤字脱字など、今更ちょっと直しました…。

イラスト・マンガ 一覧

一般向けの
・イラスト


・まんが

腐向けの(隼竜・竜馬受メイン)
・まんが&イラスト系


・日記ログ

そのほか
なんちゃってゲーム紹介ページ
着せ替えリョウ君

SS一覧

SS一覧

SSS一覧

クロスオーバー系SS / OVA&サーガ越境ネタ(設定はこちら)