現と現(うつつとうつつ) 1 (サーガ。アーク以降隼人と無印竜馬。まー隼竜だよね)

※アーク以降の展開について、勝手な妄想で好きなように書いている部分があります。

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ふと、瞳を閉ざしていることに気が付いた。
同時に、今まで自分が居ると認識していた場所は、深い眠りの闇の中であり『現実』ではなかったことに思い至る。
ならば、この身体は、この闇の中で思考が「ある」と認識している肉体はどこにあるのか。この眠りに落ちる前に、自分が居た場所は――。そもそも自分は何故、この眠りについたのか――。

「…ま、…竜馬…」
ふと、誰かに呼ばれた気がして、竜馬は閉ざしていた瞼を開いた。
「………う…」
眩しい。
思わず、手の平で目元を覆う。
(どこだ…ここは…たしか俺は…爆発に巻き込まれて…)
そうだ。イーグル号で単身恐竜帝国の基地に突っ込んだのだ。しかし、ならば…。
(傷が…ねぇ…?)
目元に当てていた手の平を頬の輪郭に沿って滑らす。
ガラスの破片で受けたはずの顔の傷はどこにも――刺さった筈の破片そのものすらも、無い。
(どういうことだ?傷だけじゃねぇ…身体も疲れが全然ない感じだ…あれだけの規模の基地の爆発に巻き込まれて傷一つねぇってことは…)
「天国ってことか!?」
覚悟していたとは言え俄には信じがたい、しかしそう考えるしかない結論に行き着き、竜馬はたまらず起き上がる。
「天国――ではないな、残念ながら」
「へ?…」
半身起き上がり、初めに目に入ったのは白い…しかしどことなく研究所や病院とは違う有機的な趣をもった部屋の壁と天上。そして、妙に聞き覚えのある声に横を向くと…。
「やあ、目が覚めたようだな、具合はどうだ、竜馬――いや、リョウといった方が良いかな…」
「!?…は、…」
隼人、と動きかけた唇が途中で止まる。
起き抜けの竜馬に声をかけたその人物は、確かに竜馬の知る『神隼人』に似た姿形をしていた。
特徴的な長めの前髪、切れ長の瞳と細面の顔立ち、その容貌は間違いなく神隼人特有のものだ。
だが、目の前にいる彼は、竜馬の知る隼人より随分と年上に――自分の父や、早乙女博士に近い年代に見えた。顎に蓄えた髭も、その姿に貫禄を与えている。それに、体格も自分の知る彼よりも随分とがっしりしている。何より、鋭い中に穏やかさも感じられる眼差しと、落ち着いた…『丸くなった』とでも言えば良いのか…雰囲気は、竜馬の知っている隼人のイメージとはかけ離れたものだった。
「え…っと…」
言葉が出てこない。
目を見開いたまま、口をぱくぱくさせる竜馬を見て、男はにっこりと笑う。
「どうやら、突然のことで混乱しているようだな。まあ、無理はするな。きちんと動けるようになったら事情を聞くとしよう…今は体力が戻るまで休むといい」
「へ?…あ…あぁ」
「腹が減っているとか、体にどこか違和感があるとか無いか?もしあれば…」
「いや、特には…て言うか…」
「なにか気になることがあればいつでも呼んでくれ。とりあえずベッドサイドの電話は私の部屋に繋がっているから――」
「ちょ!ちょっと待て!」
自分のペースで話を進め、席を立とうとする男を、竜馬は慌てて呼び止める。
「どこなんだよ、ここ!どうして俺はこんなとこで寝てんだ!それに…」
「それに?」
「お前、隼人、なのか?」
冷静に考えればそんな筈はない。しかし、彼の自分に対する視線に、竜馬は見覚えがあった。
鋭く、内側まで見通そうとする…けれど、時になぜか優しさもある気がする…。
「ふむ…思ったよりも元気だな、流石リョウといったところか」
感心したように笑ったあと、男はまるで宥めるように竜馬の頭を撫でた。
「だが…残念なことにお前に教えられることは現時点では限られていてな…とりあえず、俺のことは…そうだな、神(じん)でいい」
「神…さん?」
随分勝手な返答だったが、柔らかく頭を撫でる手に毒気を抜かれた竜馬は、とりあえず名乗られた男の名前を復唱する。
「……一応最低限の礼儀はわきまえているんだな…」
『神さん』と呼ばれ一瞬、驚いたように目を見開いた神だったが、その顔はすぐに元の笑みに戻った。
「まぁ…いちおーな」
その顔がなんだか、竜馬の知る隼人からは想像できないほど甘く優しい気がして、竜馬はなんとなく目を伏せる。

「じゃあ、しばらくしたらまた来る、連絡は先程教えた通り…」
「あ!待ってくれ、神…さん、もう一つ聞きてぇんだけど…」
「ん?どうした?」
「ここにきたのって俺だけか?もう一人小さい男の子が…もう、死んでいたと思うけど…」
「――残念だが、君だけだ」
「そっか……うん、ありがとう…」
自分だけが…。
仕方がないこととはいえ、胸に込み上げる苦い感情はどうしようもなくて、竜馬は指先が白くなるほど拳を握りしめた。
「……小さい男の子…ひょっとして、いや、やはり…あの時か…」
神がぽつりと呟いた言葉は、竜馬の耳には届かなかった。

——-

「うめーな!ここの食事!」
そう言って目の前に出された食事をかきこむ竜馬の姿を、神はテーブルの向かいに座り、目を細めて見守っていた。
竜馬が目覚めてから二日が過ぎた。元々丈夫な竜馬は、始めこそ呆然としていたものの、すぐに状況に適応し始めた。
ここが敵の領地内とも限らない…そうも思ったが、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる神といるうちに、少なくとも危険な場所ではないと感じるようになってきた。
それに、なんとなくここの――ここがどこかすら、竜馬はまだ知らないのだが――空気は竜馬の肌に馴染む。
研究所のような、いや、ゲッターのコクピットにいる時の方が近いか…いつの間にか居心地が良いと思うようになっていたあの雰囲気に、似ているのだ。
「よく食うな、おかわりはいるか?」
「いるっ!…と言いたいとこだけど、腹八分目が一番動きやすいからなぁ」
ここに来る前に緊張感無く食い倒れていた友を思いだし、竜馬は『ごっつぉーさん!』とすっかり空っぽになった膳に頭を下げる。
「成る程…成る程確かに」
そんな竜馬を見て、神はどこか懐かしげな目をして、微笑んだ。
「なぁ、もういい加減教えてくれよ、ここどこなんだよ?俺は…そらぁここはなんか居心地良いけどよ…出来れば研究所に帰りてぇんだけど」
「リョウ…この二日で何度も言ったが、今はまだ時では無いんだ。案ずるな…その時が来れば必ず帰れる」
「またそれかよ!神さん!時っていつだよ?…それにここどこなんだって方は何で教えてくれねーんだ?」
「うん、そこはやはり流されてくれんか…」
「とぼけんなよな!大体一昨日からずっとこの部屋に詰めっぱなしで…体がなまっちまう」
風呂と洗面所は部屋に作りつけられていたので生活に問題はないが、やはりずっとこの部屋の中と言うのは竜馬の性格上窮屈この上なかった。
ならば、勝手に出ていって探索なりなんなりすれば良い――普段の竜馬なら間違いなくそうするだろうが、そうは出来ない理由があった。
外への扉が――窓すらも、見当たらないのだ。
ならば神はどのようにして出入りしているのか?普通なら見ているはずなのにどうも思い出せない。
腹が減ったと言えばいつの間にか料理をもって室内にいる。風呂に入ったあとの着替えがほしいと言った時には、風呂上がりの洗面所にサイズがぴったりの着替えが一式用意してあった。
そういえば、ここに来てから、神以外の人間も見ていない。
考えれば考えるほど、目の前にいる神が怪しく見えてきて、竜馬は眉根を寄せた
「そんな顔をしないでくれ、リョウ。…そうだな、確かにずっとここにいるのは窮屈だろう。どうだ。これから一緒に散歩にでも行こうか。」
「散歩…?」
我が儘な子供をなだめるようなその物言いに、少しムッとした竜馬は…しかし、そう言う神の顔が予想以上に困っているように見え、次の言葉を続けられなかった。
「ああ、いける場所は限られるがね。駄目か?」
「…まあ、ダメじゃないけどよ」
「それは良かった。すぐ支度をする。待っていてくれ。」
「おう…」
胸を撫で下ろしたように笑う神の顔を見るのが、なんだか照れ臭くて、竜馬は横を向いて小さく返事をした。
自分の問をまたもはぐらかされたことに気づくこともできずに。

———-

春とも秋とも知れぬ、暖かな気候に包まれたその庭は、まるで研究所の近くにある自然公園のようだった。
「すげえ…広い!」
「気に入ったか?リョウ」
先程まで着ていたくたびれた白衣を脱ぎ、スーツ姿になった神は、竜馬の驚いたような顔を見て満足そうに笑った。

『少しの間、目を閉じていてくれるか?』
竜馬がジャケットを羽織る間もなく支度を終えた神は、部屋を出る前にそういった。
『なんだよ?見られちゃ不味いもんでも外にあるのか?そんなに不安なら目隠しでもすりゃいいじゃねえか』
またも隠し立てをするようなことを言われ、竜馬はムキになって言い返す。
『…いや、目隠しは…そういう趣味が全く無いとは言わんが…あぁ、でもリョウは知らんのか…』
『あぁ?何言ってんだよ?』
なぜか困ったような顔をして、どうしたものかと髭を撫でる神のどうにも噛み合わない物言いに、竜馬は呆れたような声をあげる。
『っとに、もう良いぜ。俺が目ぇつぶってりゃ良いんだろ!』
『ん…まぁ、そうだな…』
なぜか少し残念そうな声音の神を尻目に、竜馬はぎゅっと目をつぶる。
すると、その瞼の上に、自分のものより随分大きな手の平が重ねられ、竜馬の見る闇はより一層深みを増した。
『なんだよこれ?別にこんなことしなくても…』
少しかさついた、しかし思ったより暖かい手のひらの感触に竜馬は驚く。
『少しだけだ。な。』
『っ…』
囁くようなその声が、思ったより近くから聞こえ、耳を掠める吐息に竜馬はぴくりと震えた。
(大丈夫なのか?これ…)
竜馬は今さら初めて、後ろにいるこの男に少しの恐怖を覚えた。
しかも、それは今までの人生の中で覚えたどの恐怖とも違う性質のものだった。
なんだか突然彼といる空間の密度が上がったような…そわそわして落ち着かない、逃げ出したいようなこのままでいたいような不思議な感じ。
『では、行こうか。』
しかし、翻弄されている竜馬の心に気付いていないのか、神は事も無げに出発の言葉を告げた。
神に促され、足を前に進める。しばらく進んだところで、止まるように言われた。
ピ、ピ、と何かを押す音がする。研究所にもあるタッチパネルのようなものだろうか。だが一体どこに?壁に?いや、壁には何もなかったはずだ。
やがて、ウィィンと、何かが開く音がして、竜馬は外の空気が室内に流れ込むのを感じる。
『10歩前に歩いたら、もう目を開けても良いぞ』
『っ…わかったから、くすぐってぇからあんまし耳の近くでしゃべんなよ…神さん』
友人に似ている男に、優しく囁かれるのはどうにも『いけないこと』をしているような…されているような気がして、竜馬は困ったように抗議した。
『あぁ、すまんすまん』
悪びれもせずそう言うと、神は竜馬の瞼を覆っていた手を離す。
とりあえず、竜馬は素直に、言われた通り十歩歩くことにした。
一歩進むごとに、踏みしめる地面が硬質な床ではなく、しっかりとした大地になっていくのを感じる。
鼻孔を擽る匂いに、自然の樹木、草花のそれが混ざり始める。
(なんでだ?壁の外がそのまま外なんて、そんな気配無かった)
不思議に思いながらも、十歩歩いて目を開けた竜馬の目の前に広がったのは、二人が今いる、緩やかな自然の風景の中だった。

「あの花、何て言うんだ?」
「何て言ったかな…少し待て…あぁ、沈丁花だな」
「へー、神さん物識りだなぁ。ますます隼人見てぇだ」
しばらくの間、二人は自然の力強さに満ちたその庭の中を思いのままに散策した。
特に体力があり余っていた竜馬は、道もない野原の中をはしゃいで駆け回った。
しかし、思いのままに遊ぶ体をしながらも、竜馬はこの庭の果てを探ることを忘れていなかった。ここから外に出る事が出来れば、ここがどういうところなのかくらいは、わかるのではないかと思ったのだ。
だが、いけどもいけども、その庭の向こうに見える木立の群れにはなぜかたどり着けず、疲れきった竜馬は今はこうして道行きにあったベンチに神と共に腰掛け、とりとめもない話に興じているのであった。
「その――隼人君とやらは、そんなに私に似ているのかい?」
そう言う神の問いかけに、竜馬はなんとも妙な心地がした。
「似てる―けど、やっぱりなんかちげぇんだよなぁ。隼人よりも神さんのがずっとオトナって感じだし――まあ、当たり前か―――うーん、時々よくわかんねーんだよなぁ、あいつ」
「ん…わからない、のか?」
何故か、隣にいる神の笑顔が少しひきつった気がしたが、構わず竜馬は続ける。
「なんつーかよ、会った時はやったら細くてゆらゆら~っとしてて、ユーレイ見てぇなやつって感じだったんだけど…最近はしゃっきりしちまって、なんかすげー『変わった』って感じすんだよなー」
「そうか…」
相づちをうちながらも神の顔はやはり少しこわばっている。
「セーカクもさ、最初は正直こんな奴とやってけんのかよーって思ってたけど、付き合ってみたら妙に馬があうし…時々ちょっとついてけねーとこもあるけど、――うん、根っこは良いやつだぜ、多分。やりかたが俺と違うだけでさ」
「成る程、喧嘩とかはしないのか」
「そりゃーしょっちゅう言い合いになることはあるぜ?最近はもう一人、言っただろ、武蔵ってやつも増えて大変だよ。でもよ、そんなん些細なことだし、多分無いより有る方がいいんだよ、俺らの場合」
友のことを思い出して、竜馬はにっと歯を見せて笑った。
神は、そんな竜馬を見て眩しそうに目を細める。
「神さんは、友達いるのか?」
なんとなく話の流れで気になって、竜馬は神に問い返す。
「ああ、沢山…とは言えないかもしれないが、いるさ。それに…私が今こうしていられるのも、友というか、伴侶というか…とにかく、私の大切な人のお陰だ」
「はんりょ?なんだそれ?」
「まあ…そうだな、いつまでも共にありたいと思う…奥さんみたいなもんかな」
神がはにかんだように『奥さん』と口にした一瞬、ぴりっと神の近くの空間にヒビが入った気がした。
「うわっ!?」
「ああ、すまん、今のは…あまり自惚れたことを言うと、照れて怒る相手でな。そこがまた可愛いんだが…とにかく、あまり気にしないでくれ」
「え…あっ、うん」
神があんまり事も無げに笑うので、竜馬はなんとなくその現象について聞くことができなくなってしまった。
「その…神さんの奥さんって…どんな人?美人?」
「ん?聞いてくれるのか?」
伴侶…とやらの話をする神は、ここに来てから初めて見るくらい楽しそうで、竜馬はもう少し神の話を聞いてみたくなった。
「美人か…か、うーん、世の評価がどうであれ、私にとっては今も昔も変わらず魅力的で堪らないんだがね…」
「なんだよー煮えきらねぇ返事だなぁ、また怒られんじゃねぇの?」
「ははは…正直に『可愛い』何て言ったらそっちの方が怒られそうだ」
目尻を緩めながらそう言う神は、本当に楽しそうだ。これまであまりに落ち着いていた神の、人間味の有る一面を知ることが出来た気がして、聞いている竜馬の方も自然と笑顔になってくる。
「へえ、俺も会ってみてぇなぁ。ここに来てから神さん以外の人に会ってないし、見てみてぇ」
「うぅむ…どうなるのか…興味深いが…難しいな」
てっきり承諾されるものだと思っていたのに、神の返事は思わしいものではなかった。
「えー?何でだよ…じゃあさ、ここに神さん以外の人っていねぇの?」
「居る、と言えば居るし、居ないと言えば居ないな。とりあえず、今君に見えるのは私だけだろう」
「…なんだそれ…俺あんまアタマ良くねぇから…言ってる意味わかんねぇ…」
ふわふわと掴み所の無い神の回答に、竜馬は頭を抱えたい気持ちになった。
「私も、解りやすく説明してやれないのは残念だよ。…まぁ、そのうちわかる」
「結局なんも教えてくれねぇんじゃねーか」
「お、それは解ったのか」
「なんだそれ!」
小さい子をからかうような神の態度に、流石に怒りそうになる。
しかし、自分に対応する神があまりにも楽しそうで、竜馬はどうにも本気で怒る気になれなかった。
「くそっ…もういいぜ。どーせ、そのうちわかるんだろ」
「あぁ、そうやって流れに身を任せていてくれた方が、こちらも助かる。まぁ、暫くは…老人の話し相手にでもなった気でいてくれ」
「老人って…神さんそんな年じゃねぇだろ」
「ん?そうか…そういわれると嬉しいな」
老け込んだと言われることが多かったからなあ。
そう呟いて、神はやけに嬉しそうに笑った。

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