餌付けのような (新ゲ。隼人と竜馬。無自覚いちゃいちゃ。)

煩い。
食堂の盆をもって前の席に座った竜馬の、やたらと騒ぎ立てる姿を見ながら、隼人はただ、そう思った。
「なんで同じ魚定食なのにお前のだけアイスついてんだよ!」
「食事中に騒ぐな」
唾を飛ばしかねない勢いでつっかかってくる竜馬をあしらいながら、隼人は吸い物をすする。
訓練後で他の職員達と時間がずれており、しかも午後の非番を楽しもうと武蔵坊はどこぞに羽根を伸ばしに行ってしまっているため、幸か不幸か、隼人と竜馬の他に食堂に人は居なかった。
「俺のにはアイスついてねぇのにお前のにはついてたらふこーへーだろーが!食堂のメニューにアイスなんてねぇぞ!」
「当たった。」
「あ?」
これは説明せんと納得しないだろうと思った隼人は、仕方なく口を開く。
「入り口の貼り紙に書いてあっただろう。昨日から一週間、食券の整理券番号、下三桁がその日の指定番号と一致していた場合、アイスが貰える。」
「ま、まじかよ…!」
説明しつつ、何となく間が抜けた話だと隼人は思った。鬼の襲撃でもあれば、毎回のように少なからず死人が出るこの研究所は、時々今回のようなやけに能天気な企画を行う。もっとも、2年も鬼の襲撃が無ければ環境も多少は変わるか。
しかしそれを差し引いて考えたとしてもだ。短くない時間を過ごして感じたことだが、常に死と隣り合わせに有るような状況にいながら、この研究所にいる連中はその事により萎縮することが無い。緊張感が無いというわけではなく、その事実により必要以上に未来を恐れたり、ここから逃げ出そうとする者がほぼいないのだ。それは研究者のみならず、食堂や売店に出入りしている職員までも同じだ。
彼等の姿に、時に神を信じる宗教者の姿を連想することすらある。まるで、ここにいることによって、見えない何かと繋がっている安堵を得ているかのような―――。
「っておい!聞いてんのか!」
珍しく、理論ではなく感性による思案に耽っていた隼人は、竜馬の焦れたような声で現実に呼び戻された。
「…聞いていたと思うか」
別に取り繕うような間柄でもないので、正直にそう答える。
「聞いてねぇのなんて見りゃわかるぜ。で、んなコトよりもよぉ」
「なんだ」
「……お前、アイス好きなのか?」
別に好きでも嫌いでもない。
そう言いかけた言葉は、竜馬の表情を見て、止まった。
(全く、どこまでも分かりやすいやつだな)
「欲しいか?」
どうやら、その返答は竜馬にとって予想外だったらしい。こちらの様子を伺うようだった顔つきが、怒ったような照れたような表情に一変した。
「べ、別にんなこと言いたかったんじゃねーよ!ただ、ちょっと一口ぐれぇ…貰えねーかなぁと思っただけ…で…よぉ」
言いながら、隼人の台詞が図星だったのを自覚したのか、自分の卑しいのが流石に恥ずかしくなって来たのか、段々と語気が弱まっていく。
「…くそ、もうどーでもいーぜ!――てめぇが当てたんだろ!さっさと食えよ!」
自棄になったように言いきって、片肘をついてそっぽを向く。まったく、うるさい男だと思う。自分の関心事以外に気を割きたくないと思うから、あまり関わらないようにしている筈なのに。
一度気になると、ぞわぞわと。こんな風に自分の心をかきたてる人間は今までいなかった。
拗ねたように向けられた後頭部を、宥めるように撫でてみたらどんな顔をするだろうか?それこそ噛みつかれそうだ。しおらしくされるがままになる可能性は……しかし、そんな竜馬の姿を想像しかけて、なんだか思考の道を踏み外しそうになり、隼人は心中慌てて思いとどまる。
そもそも、なぜそんな情が、自分のどこから湧いてくるのか。
なんとなく、この思考には深入りしたくはない気がして、隼人は考えることをやめた。

…………………………

「仕方の無いやつだな、お前は」
呆れたような口調とは裏腹に、隼人の口角はすこし上がっていた。
いつもの射るような目付きと比べると幾分か穏やかに細められた眦の形には見覚えがある。
まただ、と竜馬は思った。
平安京とやらから帰ってきてからか、竜馬は時折、隼人にひどく甘やかされているような気分になることがある。
それは大抵、竜馬が我ながらさすがに大人げないと思うような行動をとった時で、隼人は仕方がないと言いながらもけして竜馬を否定しない。
そして、そういう時の隼人は――本人が気付いているかは解らないが―――いつも、常よりも大人びて落ち着きさえ見えるような笑顔を見せているのだ。
「…んだよ」
なんだかひどく子供扱いされているような気がして、しかし隼人にそういう風に扱われるのは決して嫌ではなくて…。なんとなくこそばゆい気持ちになっていた竜馬の前に、隼人がアイスのカップを差し出してきた。
「えぁ?」
「アイスは好きでも嫌いでもない。俺が望んで選んだものでもないしな。いるなら食え」
「へ?あ?ま…マジかよっ」
「これ以上ああだこうだ言われたら落ち着いて食事もできん」
突然のことに呆気にとられる竜馬を他所に、隼人は中断していた自分の食事に戻ってしまった。
「あ…あのよ」
「ん?」
「……ありがとな」
自分でもなんだか照れ臭い表情になっているのを感じつつ言うと、隼人は箸を口元に置いたまま硬直した。
しばらく目を見開いて竜馬を凝視したあと、突然はっと我に帰ったかのように、また食事に戻った。
「なんだよ…悪かったな、ガラにもねぇこと言ってよ」
「ーーいいから早く食え、お前はアイスが溶けることも知らんのか」
「てめ!あからさまにバカ扱いしやがって!……まあ、コイツがあっから今日ンとこは許してやるけどよ」
隼人にそういわれて、竜馬も腑に落ちないながらも自分の食事に戻った。
できるだけ早く食後のアイスにありつきたいのだろう、思いきり白飯をかきこむ竜馬の表情を見るとも無しに見ながら、隼人は小さく「悪くないな…」と、自身の口内にしかわからない動きで、呟いた。

—————-

このあと、やっぱ半分食うか?とか、竜馬がからかうつもりで、あーん、ってやったら隼人が真顔で対応して、そのあと二人とも妙にどぎまぎ気分になって変な空気生まれるとかそういうやり取りがあるはずだろ!何故ないんだあのころの私!このばか野郎が!
(当時はたぶん謎の所内イベントを真顔で解説する隼人が書きたくて書いた)

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