もう一度ゲットマシンに乗る少し前(サーガ無印・隼人と竜馬)

獣のような眼だった。
数日前、早乙女博士を車で学会に送る際に立ちはだかった人物。彼が、到底生きているとは思われていなかった竜馬であるということを、隼人はどうしても信じられなかった。
確かに、その身のこなしや包帯に包まれた輪郭に竜馬の面影を感じないわけではなかった。だが、その眼には彼が彼である証のようなもの――言うなれば、竜馬の眼に常に光っていた彼の意思の力ようなもの――がなかった。
その理由は既に明白になっている。今の彼は流竜馬でありながら流竜馬ではない。一切の記憶を無くした彼は今、帰還した早乙女研究所で自らの『思い出さなければならない何か』を必死に思い出そうとしている。

休憩室のベンチにもたれ掛かり、竜馬はぼうっと空を見ていた。研究所の所員たちに会わせ、寝起きしていた自室を見せ、ゲッターロボを見せ――竜馬が記憶を思い出しそうな場所には一通り連れていったが何を見ても何をさわっても彼は辛そうに首を降るか、余計混乱し取り乱すかのどちらかだった。
現在はとりあえず落ち着きを取り戻させるため、緊急事態で人の居ないこの部屋で休ませている。
本来、意識を取り戻したばかりの相手に刺激を与えすぎるのはよくないとは思っているが、なにしろ時間がなかった。
「…うあ…うう…」
「リョウ、よせ、傷にさわる」
時々苦しそうにうめき、まだ包帯の絡まっている頭をかきむしろうとする彼の腕を、隼人は出来る限り優しく制止した。実際には竜馬の力もかなり強いのでどうしてもこちらも力で押さえ込むことになるが、それでも出来る限り彼の精神を刺激したくないと隼人は思っていた。
竜馬の顔には無数の傷跡がある。医師によればきちんと治療すれば跡は残らないらしい。そのためにも、今ここで傷が開くようなことをさせるわけには行かない。
ふと、竜馬の腕から力が抜けた。
虚ろな目で、ぼうっと自らの手に重なる隼人の手を見ている。
「リョウ…」
少し伏せられた目に、長いまつげが影を作っている。
薄く陰る眼差しはやはり自分の知っている彼とは違っていて、だがやはり紛れもない彼なのだ。
『竜馬は綺麗だ』と思った。
こんな時に何を、と感じたがその感情を止めることはできなかった。何故か、自分はひどく幸福なのではないかと感じた。彼が生きていて――もう残された時間は僅かかもしれないが――自分と共にいる。それは一度は捨てろと自分に言い聞かせた望みであり、同時にどうしても捨てることができなかった望みだった。

「は、やと…」
「!…リョウ?!」
かすれた声で竜馬に呼ばれ、弾かれたように隼人は答えた。
「よかった。名前、あってたか…」
「……ああ」
思い出したわけではないのか。そう思い、隼人の声はどうしても少し落胆したようになる。
「包帯、もう外した方がいいな。」
ごまかすように、隼人は竜馬の頭に中途半端に絡まっている包帯に手を伸ばそうとする。
その腕を、竜馬が力なく握った。
「リョウ…」
隼人の目が見開かれる。
「あのさ…お前、あのとき…」
少し困ったように眉根を寄せ、竜馬が口を開く。
隼人は上げかけた腕を下げ、彼の言葉を聞く姿勢になった。
「病院…に、来ただろ、お前」
「俺、最初はなんだかよくわかんなくて、なんか周りがうるせえなぐらいにしか思ってなかったんだけど…」
「お前、あのとき呼んだだろ、俺のこと…リョウって…」
「ああ」
ぐ、と押さえたままになっていた竜馬の腕に力が入るのを感じた。彼は自分の服を強く掴んでいるようだった。
「あんときは…一瞬だったけど、全部思い出したんだ!隼人が来てくれたって!驚いて、そんですごく嬉しくて、だけど…お前のとこいかなきゃって、お前のこと助けなきゃって…身体は動いたんだけど…そのあと、俺…」
興奮し捲し立てる口調がだんだんと力を無くしていく。
最後に小さくごめんと呟いて、竜馬は頭を垂れた。
「………ありがとう、リョウ」
そっと、片手を彼の頭部に持っていき、やさしく髪をなぜる。
泣きそうな顔をしている彼を宥めながら、恐らく自分も同じような顔をしているのだろうと隼人は感じていた。
本当は抱き締めてしまいたかった。その感情が自然なものだとも思ったが、それはできなかった。
離れられなくなるのが怖かった。
今は非常時だ。敵の襲撃があれば竜馬を置いて前線にたち、戦わなければならない。
ゲッターが出動できない今、それしか敵の勢力に立ち向かう方法はなかった。ここを残して逃げ出すわけには行かない。今、早乙女研究所は日本の最終防衛ラインだ。
彼を抱き締めてその熱を知れば、決意が揺らぐような気がした。
「…弱いな」
「?」
「俺のことだ、気にするな」
不安がる竜馬を安心させるように、少し笑う。
「お前の記憶は、すぐじゃないかもしれないが必ず戻る。出来る手は全て打つつもりだ。」
竜馬の髪に絡んでいる包帯をときながら、隼人は言う。
「ああ、思い出す…必ず」
答える彼の表情は何かを決心したようだった。
その眼は、少しだけ、隼人の知っている竜馬の眼に似ている。彼の、奥底で眠っていた何かに火が灯る瞬間を見たような気がして、隼人は息を飲んだ。

「隼人さん、ゲットマシンの準備ができました」
休憩室の扉を軽くノックし、所員がそう伝えた
「ああ、ありがとうございます。すぐ向かいます」
取り去った包帯を纏めながら、隼人は答えた。
「ゲット…マシン?」
「ああ、お前が操縦していたマシンだ。疲れているところ済まないが、もうひとがんばりしてくれるか?」
暫く視線をさ迷わせていた竜馬は、やがて小さく首を縦に振った。
腰をあげた竜馬の背を、促すように隼人は軽く押した。
「行こう、リョウ」
「……ああ」
そう言って竜馬は自ら一歩踏み出す。
前を歩く竜馬の姿をきちんと脳裏に焼き付けて置くため、隼人は少しだけ目を閉じ、瞼の裏に今の景色を描いた。

2011/11/25 up

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