遅効性 (サーガGと真の間。隼竜。付き合い始めて二ヶ月ぐらい)

「隼人ー、今週のア○ションまわしにきたぞー!」
「ああ、開けていいぞ。」
早乙女研究所の一部男性職員間では、最近マンガ雑誌の回し読みが流行っている。流行っているというより、研究所内の売店では必要外のものは極力仕入れないようにしているため、気がついたらこのような形で出来るだけ皆の懐を痛ませない様な供給が行われるようになっていた。大抵の場合隣室から隣室へと回っていくわけで、その流上竜馬の次は隼人だった。
「ほらよ、これ」
「ああ、ありがとう。相変わらず、俺の部屋に回ってくる頃にはぼろぼろだな」
机に向かって何やら作業をしていた隼人は、ドアの前にたっている竜馬の元まで行き 、少しわらいながら角がよれたりしてくたびれている週刊誌を受け取った。
「ついでに少しよってくか?」
「おー」
いつも通りの展開に、竜馬は軽く返事をして、自分より格段にものが多いはずにも関わらず、どこか生活感のない隼人の部屋に足を踏み入れた。
「しかし、お前も漫画読むなんて、何か意外だな」
これもまたいつも通り、隼人の部屋のベッドに腰掛けながら、常々思っていたことをなんとなく竜馬が口にした。
「まあ、ものにも寄るがな」
そう言って、隼人は雑誌をベッドの脇のチェストに置いた。
「読まねえの?」
「せっかくお前と二人きりなのに、他の事に時間を使う気にはならん」
「お前はなあ…」
横に座った隼人に腕をまわされ腰を抱かれ、竜馬は少しあきれたような声音になる。
隼人と竜馬がこういう関係になったのは今日昨日のことではないが、かといって長いわけでもない、せいぜい数か月前だ。だからなのか、竜馬はどうも未だに二人きりになったときの隼人の豹変に慣れない。
人前ではどちらかと言うと竜馬が忙しい隼人に何だかんだと絡んで、隼人はそれに淡々と返事をしていることが多いのだが、どちらかの部屋や二人以外が来る心配の無い場所では立場が逆転する。
「今日は、風呂に入ってきたんだな」
ぎゅっと抱き寄せられ、首筋に顔を埋められる。
「どっちでもいいだろ…そんなん」
「俺としては、お前自身の匂いが嗅げる方がいいんだがな」
「~~~」
人が変わったようにデレッデレになると言うわけではない。しかし、仕事中には冷たくさえ見える無表情を崩さない彼が、優しげに眦を緩め、壊れ物でも扱うかのように身体に触れてくるというだけで、なんだかこそばゆい気分になってしまうのだ。
傍からは人間味がないようにすら見られることのある隼人が、本当は等の本人も扱いに困ることがあるくらい感情が深い人間であると言うことを知っている竜馬ですらこうなのだから、他の人がもしもこんなところを見たらいったいどんな心地になるのか。
(案外、こいつも人の子かと思って安心したりしてな…)
そう思うには相手が非常識過ぎるか…と、竜馬は心中でひとりごちた。
「…何考えてるんだ?竜馬」
「なんでも…って何やってんだよおい!」
ぼうっと考えこんでいるうちに、部屋着にしているズボンを際どいところまで下ろされていたことに気づき、竜馬は語気を荒げる。
「全く、油断も隙もねーやつだなお前は!」
気づいた瞬間に動きがいやらしさをましたような気がする手をたしなめるようにひっぺがすと、隼人は少し困ったように眉を下げる。その表情に子供じみた怒りなどは全く見えなくて、竜馬はそれがまた恥ずかしいのだ。
「すまん、図に乗りすぎたな」
そう言っていたずらしていた手を素直に引っ込めるのがもどかしい。最近の隼人はいつもそうだ。付き合ったばかりの頃はもっと余裕なくがっついてきた気がするのに。優しく触れてくる癖にこちらが少しでも怒るようなそぶりを見せるとすぐに引く。
「…しかし、ここまでやっても気づかないのは珍しいな。本当に何も…」
「別になんでもねーって言ってるだろ!」
まただ。隼人に怒鳴ってしまったあとで竜馬はそう思った。
どう考えても自分の方が子供じみている。違うのに。そんなふうにしたい訳じゃないのに。二人きりになるとどうしてもこうなってしまうのだ。だって仕方がない。だって。
(なんでこんな格好良いんだよこいつ!)
隼人の癖に!と語尾につけそうな勢いで、竜馬は思った。
隼人が竜馬に押さえきれない想いをぶつけ、半ば押し切られるかのような形で竜馬がそれに応と答えたのが二人の始まりだった。しかし、恋人同士としての自覚が生まれてくるにつれ、竜馬の意識に自分でも予想していなかった事態が起こった。
それは冷静に考えればなんということはなく、まあ要は、竜馬の方も実は自分で思っているよりずっと隼人のことが大好きだったと言うだけのことなのだが。しかし、そんな自覚はさっぱりなかった竜馬自身は、自分と触れ合ったり、口づけあったり、時々それ以上の事に及んだりする時に、自分の反応に一喜一憂する隼人に覚えるドキドキに完全に翻弄されていた。
隼人が自分だけに見せてくれる優しい笑い方がすごく嬉しいと思ったり、口付けたりする時の雄っぽい表情が格好いいと思ったり、かと思うとこんなにがさつで空手一筋でしかもそもそも男な自分のどこが良いのかわからなくなって意味もなく暗い気持ちになったり。それまでの自分の人生には関係無かった様々な感情が毎日のように襲ってきて混乱して、その癖隼人とはできるだけ一緒にいたくて。表面的には時に素っ気ないとすら言えるような態度をとる竜馬の頭の中は、隼人のことでどんどんぐちゃぐちゃになっていっていた。
「最近少しは、距離のとりかたがわかってきたと思ったんだがな」
そう言ってあたまをぽんぽんと撫でられる。なんとか竜馬の気持ちをなだめようとしている隼人の顔を、竜馬は見ることができない。
また少し寂しそうな笑いかたをしてるんだろうか。だいたい距離の取り方ってなんだ。本当はもっと近くても良いのに。いまのはただちょっとえろい感じの雰囲気になっていたのに驚いただけで。隼人といるのが嫌な訳じゃ。むしろ逆で。
脳内では言い訳の言葉がぐるぐると渦巻いているのに全く言葉にできない。こんなのは自分らしくないと思ってはいるのだが、何故か本心を伝えることができずにいた。
「何か飲むか?」
そう言って隼人が立ち上がろうとする。温もりが消えるのが嫌で、竜馬は思わず隼人の上着の裾を掴んだ。
「…竜馬?」
「あ、えと…」
隼人の片眉が、少し驚いたようにつり上がる。
どうすれば良いのかわからない。しかし既に後には引けなくなっていて、仕方なく竜馬は「座れ」と促すように掴んだ裾をしたに引っ張った。
大人しく、隼人はその場に再度腰を下ろした。隼人の体温が戻ってきたことに、竜馬は安堵する。
裾を掴んでいた手を隼人の腕に移動させ、更にその肩に頭を預ける。
「りょう…」
突然の事に驚いたのか、隼人は少しの間あっけにとられていた。
やがて、空いた方の手で優しく髪を撫でられて、竜馬は自分の頬が熱くなっていくのを感じた。
(…やべえ、どーすんだよこれ…)
こいびとどうしみたいだ。
突然妙にはっきりとそう思ってしまい。ますます竜馬は隼人の顔が見られない。
「…俺とこうしているのは、嫌じゃないか?」
「は!?」
予想していなかった質問に、思わず竜馬は顔をあげる。
「いや…俺としては竜馬とこうやってくっついているのはすごく好きなんだが、お前がいやなら別に前みたいにしても」
「やじゃねえ!」
気弱なことを言い出す隼人に、竜馬は思わず叫んでしまった。
気圧されたのか、隼人は黙り混む。その腕をぎゅっと握り、竜馬は続ける。
「やだったら始めからお前の部屋あがんねーよ!こーやってんのだって嫌いじゃねえ!ただ…」
その先を言い澱んで、竜馬は口ごもる。隼人は、先を促すこともなく竜馬の次の言葉を待っている。意を決して、竜馬はまた口を開いた。
「俺ぁこういうのなれてねぇから…は、恥ずかしい…だけだから…」
そう言って、隼人の腕に胸を密着させる。早鐘を打っている心臓の音を知ってほしかった。
「だ、だから、俺がちょっと怒鳴ったって聞き分けよく遠慮すんなよな!あ、でもさっきみたいに俺に断りもなくヘンなことはすんじゃねーぞ!」
「…ふむ、どこまでがよくてどこからがだめなのか今一解らんな」
「そんなんてめぇで考えろ!…ていうか、何で普通なんだよお前!」
自分は物凄く勇気を出して告白したのに、隼人の対応はあまりにこともないようで、竜馬はなんだかどっと疲れたような気がした。
「嫌じゃないとわかっただけで、充分だ」
「うおっ!」
突然、膝裏と背を持たれ、隼人の膝の上に横抱きにされた。
「な、なんだよイキナリ!」
「このくらいは、いいか?」
「え?!あ…お、おう…」
真剣な顔でそう訊かれると、竜馬はうなずくしかない。
「これは?」
と、言われ、額に軽く口付けられる。
「い、いい、けど」
「そうか………竜馬がしたいことは、なにかあるか?」
軽く眉値を寄せてそう返すと、今度は逆に隼人にそう訊かれた。
「え?あー…」
したいこと…隼人にしてほしいこと…。現時点ですっかり許容量を越えていてぐちゃぐちゃな脳みそで竜馬は考える。
「…まあ、冗談だ…」
「くち。」
「ん?」
ぽそっと、呟くように竜馬の唇から音が漏れたのを、隼人は聞き逃さなかった。
少しうつむいた竜馬の口許に、隼人は耳を寄せる。
「…最近、お前くちにキスしてくれねーじゃねーか…んっ!」
照れ隠しのように、たまにはしてもいいぞと続けようとしたが、言葉にはならなかった。
言葉を区切ったその瞬間に、竜馬は隼人に口付けられた。
「うん…… んんっ!ふぅ…んーっ!」
隼人の、薄い唇の感触が竜馬は好きだった。最近お互いに忙しかったとこもあり、久方ぶりだったその感覚に、しばらく竜馬はふわふわとした心地になっていた。が、ぬるりと舌を入れられた瞬間に竜馬の身体はびくりと硬直した。
(こいつ…!さっき断りも無く変な事すんなっていったばかりなのに!)
おいつけないようないやらしい舌の絡められかたに、竜馬の身体の芯はじんわりと熱を持っていった。
隼人の指先が背中や腰をなぜるのも気にならないほど、竜馬の意識は隼人とのキスに溶けていく。
「ん…ふ…」
ちゅく、ちゅ、と深く侵される音を聴きながら、いやじゃないと竜馬はおぼろげな頭で感じていた。
気持ちいいとか、ずっとしていたいとか、隼人に一方的に与えられてそう思う自分がなんだかすごく恥ずかしい気がしていつもいやがってしまう。だが、それで隼人に距離をおかれるのはいやだ。それなら、自分からも求めて隼人に喜んでもらえる方がずっといい。
「ん…んふっ…はぁ」
唇が離れる感触に、竜馬はいつのまにか閉じていた瞼をそっと上げる。
「…かわいい。」
惚けたような竜馬の表情に、満足げに隼人の口角が上がる。
ぽつりと呟かれた言葉に、竜馬は思わずむっとした顔になる。が、隼人がすまないと言う前に、今度は竜馬の方から顔を近づけて隼人の唇をふさいだ。
「!!」
予想だにしていなかった事態に、隼人の目が見開かれる。
やっぱりこの感触が好きだと確認し、竜馬は唇をすぐに離した。
目を開けると、驚いているのか照れているのか困っているのか…とにかく今まで竜馬が見たことがないような、真っ赤な顔をした隼人と目があった。
なんだ。こいつもこんな顔するんだ。
いつもより少しだけ隼人と対等になれた気がして。
「お前は、そんな顔しても格好いいな」
破顔しながら、正直に思ったままのことを口にした竜馬は、その後甘やかしすぎもよくないと言うことをその身でたっぷりと思い知ることになるのだった。

——————————-
付き合って2ヵ月あたりで、これまでしつこくしすぎたかなあと思っていた隼人がちょっとべたべたしすぎないように頑張ってみたけど竜馬も隼人の事大好きだからそんな心配は無用だったよって話が書きたかったようです。日本語難しいね。この二人が行為的にどこまで進んでいるのかいまいちわからん。

2011/11/25 up

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